「はい!」
アンドレスは、いつもの堂々とした落ち着きを取り戻しつつある声音で返事をして、それから鋭い面差しでそれぞれの武器を吟味しはじめた。
アパサは、その横顔をじっと観察している。
アンドレスは相手の視線を感じながらも、意識を武具に集中し、一本のサーベルを慎重に選び取った。
「これにいたします」
「サーベルが使えるのか?」
アパサが相変わらず情を交えぬ口調で問う。
「はい。
クスコの神学校で、競技の学科の中で学びました」
「なるほどね」
アパサの声は相変わらず冷ややかだった。
そして、今、また二人は空き地の中央で対峙していた。
夕刻が近づき、空は茜色に染まりつつある。
この時刻、周囲に人の気配はなく、ただ空き地を取り囲んで植わっている新緑の木々が夕暮れ時の涼やかな風にそよぐ音が聞こえるのみである。
「どこからでも、かかってこい」
アパサが淡々と言う。
「でも…!」
サーベルを手にしたまま、アンドレスは戸惑った。
アパサは武具を何も手にしていなかったのだ。
アンドレスは、これでもクスコの神学校では、そのサーベルの腕は学内でトップレベルだった。
否、サーベルに限らず運動競技全般において――唯一人、かの親友ロレンソを除いては、他の学科同様に他者の追従を許さなかった。
しかも、今、長身のアンドレスからは、アパサを見下ろすような形になっている。
年齢を考慮しても、30歳にさしかかるアパサと、16歳という若さの自分とでは、体力的な差も大きいはずである。
いくら猛将と謳われるこのアパサでも丸腰では、自分が本気でかかっていけばいかなる目に合わせてしまうかわからぬ、と、この時はまだアンドレスは思っていた。
「つべこべ考えずに、さっさと来い!!」
アパサが叱責まじりに、がなり立てる。
アンドレスは、サーベルの柄を握り締めた。
師を危険にさらさず勝つにはどうしたらいい……?
アンドレスの瞳の色に迷いが生じている。
アパサはその色を見透かし、不遜な笑みを浮かべながら、氷のように冷たくうそぶいた。
「己の力を過信するな。
お前の思案など、全く無用なこと」
アンドレスは改めてサーベルをグッと構え直す。
アパサは構えさえも、とろうとしない。
その目も、不気味な笑みを湛えたままだ。