コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第9章 若き剣士
「これからお世話になります!」
アンドレスは、師となる眼前の人物に、丁寧に深く頭を下げた。
実際、今回のアンドレスの滞在は、そう短期間の予定ではなかった。
トゥパク・アマルの反乱準備の進み具合にもよるが、反乱決行までの期間、ほぼ無期限で彼を預かり、武将としての力をつけること、それがトゥパク・アマルとアパサとの間の言い交わしだったのだ。
もちろんトゥパク・アマルからは、そのアパサの労に報いるための数々の珍重な品々が貢物として届けられていた。
アパサは返事のかわりに、「外に出ろ。お前の腕がどの程度か知りたい」と無愛想に呟いた。
いきなりの腕試しに若干とまどいの色を見せるアンドレスをまた冷ややかに一瞥し、アパサは「早くしろ!」と冷たく言い放つ。
すかさず、バルトリーナが鬼のような剣幕で割って入った。
「あんた!
アンドレス様はクスコからの長旅でお疲れなんだよ!!
いい加減におしよ!!」
「うるせえ!!」
アパサは妻の態度にいっそうふてくされた顔をして、妻を乱暴に押しのけ、ドカドカと外に出ていってしまった。
アンドレスもすぐにその後を追う。
アパサは広大な館の裏にある広々とした空き地にアンドレスを連れていくと、少し離れた場所に仁王立ちで腕組みしたまま、無言で目の前の若僧をジロリと眺めた。
それから、空き地の一角にある倉庫に連れて行き、その中に入れさせた。
倉庫の中は武器庫のようになっており、様々な武具がギッシリと並んでいる。
オンダ(投石器)や戦斧はもちろん、棍棒、そして、どこから手に入れたのか、スペイン人しか持てぬはずのサーベルなどもあった。
だが、さすがに銃などの火器は見当たらない。
それにしても、いずれの武具も、その大きさにしろ、種類にしろ、実に多彩に取り揃えられており、アパサの外面的な粗暴な風貌からは想像できぬほど、整然と美しく並べられている。
しかも、どれも新品のように、よく手入れされているのだった。
それは、あたかも武器の「博物館」さながらであった。
アンドレスは、見事に手入れされ陳列されたその様子に、まだ全く読めぬこの師となる人物の人柄の一端を、微かに垣間見た気がした。
「好きな武器を選べ」
アパサが感情の無い声で言う。
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