晩春の柔らかな午後の陽光の中、数名の護衛の者に伴われてアパサの屋敷に到着したアンドレスを出迎えて、まだ20代半ばのアパサの妻バルトリーナは、すっかり舞い上がってしまった。
彼女はいかにもインカ族の女性らしい風貌で、年齢にしては既にやや恰幅のよい体型に、つぶらで明るい瞳をした、気立ての良さそうな女性であった。
屋敷に通すのも忘れて見惚れているバルトリーナに、アンドレスは「これからお世話になります」と丁寧に礼をした。
明るい陽の中に溶けるような混血の美青年の到来に、「どっ、どうぞ中にお入りくださいませ!」と素っ頓狂な声を上げ、バルトリーナは有頂天で夫の部屋に素っ飛んでいった。
「あんた!
すっごいハンサムな若様ですよ!
アンドレス様って!!」
完全に舞い上がっている妻の様子に、「おまえは人を外見で判断するのか」と、アパサはジトッと恨めしげな目を向ける。
「そんなこともないけど、でもね~!
アンドレス様は、ちょっと尋常じゃないくらい、美しいお人なんだよ!!」
もともとテンションの高い妻のいっそうのハイテンションぶりに、アパサは辟易した様子で立ち上がった。
アパサ自身はと言えば、身長は中位で筋骨逞しく、その相貌も、その目は小さいながらも深く窪み、活動性と意志の強さが漲っていたし、まもなく30歳に手の届こうというわりには若々しく、それなりに人目を惹く雰囲気をもっていた。
ただ、服装や髪型など外面的なことには全く頓着せず、豪族のくせに薄汚れた極めて簡素な貫頭衣を着て、その上、妻がうるさく言わない限り、何日でも同じものを着ていた。
妻の異常な舞い上がりように、既にかなり旋毛(つむじ)を曲げながら、アパサは広間で待つアンドレスのところに出向いていった。
アンドレスはこれから師となるアパサとの対面に、大いなる期待と緊張で、その瞳を輝かせながら待っている。
かたやアパサはと言えば、そのアンドレスを一目見るなり冷ややかに目を細めた。
(とんでもない、ぼんぼんが来たもんだ)
アパサの第一印象は、そんなところだったろうか。