コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第8章 雄々しき貴婦人
しかしながら、さすがに副王との目通りなど、今やカシーケ(領主)にすぎぬ己に許されようはずもなかった。
トゥパク・アマルは、目を見開いた。
そして、立ち上がった。
決意を秘めた表情で、書斎に向かう。
彼とて、いやでも多くの流血を免れぬ反乱行為など、真実は望んではいなかった。
尊い命を一つでも失うこと、奪うこと、そのようなことは、真の意味での彼の信念に合致することではなかったのである。
トゥパク・アマルは、机上の燭台に火を灯した。
蝋燭の炎が不安定に揺れる。
そのおぼつかぬ光が、彼の瞳をも揺らした。
彼はペンを握った。
そして、自らの心の奥底から湧き起こる言葉を一つも漏らさず聴き取るかのように、全神経を集中させながら、紙にペンを走らせはじめる。
それは、まさしく副王ハウレギ宛ての嘆願書であった。
次に掲載する書状は、歴史上の資料として残る、1777年12月に副王ハウレギ宛てに提出されたトゥパク・アマル自身の手による実在の嘆願書の引用(抜粋)である。
いかなる創作よりも彼の渾身の思いが伝わってくるため、そのままここにご紹介したい。
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