コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第1章 プロローグ
「わたしは何もいたしません。
今は――…」

トゥパク・アマルは低い声で言った。
最後の方の言葉は聞き取れないほどの声だった。


そして、ナイフを下ろし、布きれの傍に置く。



アリアガは、トゥパク・アマルの言いたいことは分かっていた。
先日、この代官は「強制配給」という名目で、このささやかなナイフと布きれを、本来の値段の10倍で領民に強制的に売りつけたのだった。


「わ…わしの一存でやっていることではない。
もっと上の役人からの命令に従っているだけだ」

アリアガは動揺を隠そうとつとめたが、脂肪の塊のようなその額には、油汗がじっとりと滲んでいる。


「上の役人とは、どなたのことです?」

トゥパク・アマルが詰め寄った。

「そ、それは…」

トゥパク・アマルの目元が冷ややかな閃光を放つ。
それは、先刻のナイフの刃を思わせた。

「しゅ…首府リマの、インディアス枢機会議で決められたことなのだ」

アリアガは思わず自分の口をついて出た言葉が、あまりに稚拙だったため、自ら「しまった!」と心の内で舌打ちした。



額にかかった前髪の隙間から、トゥパク・アマルの切れ長の目が、強欲な代官を冷徹に見据える。

アリアガの横顔を、ツツ…ッと、冷や汗が伝った。


「ほう…。
では、この国のお偉い方々が、このような暴利な値で売ることをお決めになったと?」

「……――」

アリアガは、グッと言葉に詰まる。




やがて、トゥパク・アマルの低い声が、張り詰めた空気を震わせた。

「あなたがこの地に着任されてから、借金で首が回らなくなって自ら死んでいった者が、どれほどいると思っているのです?」

その瞳には、もはや、明確に怒りの色が燃え上がっていた。

「あなたは代官として、この地の領民たちを守る義務があるのです。
それを…!」

トゥパク・アマルの声にも、さすがに感情が滲みはじめる。


そして、それを悟られまいとするように、急いで言葉を継いだ。

「これ以上、あなたがこのような非道なことをお続けになるのであれば、わたしはあなたよりも、もっと上のお方に、これらのことをご報告するしかありますまい」

「なっ…なに!
このっ……!!」
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