コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
アフィリエイトOK
発行者:風とケーナ
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第7章 司祭
実は、トゥパク・アマルは、今回の面会には一縷の希望を託していた。


キリストの教義を知る彼にとって、その愛と赦しの教えに真の意味で従うならば、司祭の長たる者が、この国の窮状を野放しにしておけるはずはないのだ。

キリスト者としての最高位の立場に選ばれし人物なれば、トゥパク・アマル自身が願ってやまぬ虐げられた人々への人権や人道的配慮について、それ相応の理解と采配を期待できるかもしれない。


モスコーソ司祭との話し合いの展開によっては、流血の事態を見ずにすむかもしれぬ――トゥパク・アマルの中には、この時、まだそうした思いが残されていた。


彼は敢えてインカ風の身なりは控え、折り返しの襟がついた白い絹のシャツの上に、深い藍色の上下揃いの西洋風の衣服を身にまとった。





既に日は落ち、リマの中心部にあるインディアス枢機会議本部の広大な建物は、宵闇の中に異様に白くその影を浮かび上がらせていた。

ビルパカサたち護衛の者は、建物の敷地内に入ることを禁じられた。




非常な不安を滲ませながら見送る彼らを門前に残し、トゥパク・アマルは一人、モスコーソ司祭と会うべく所定の面会室に向かう。


その日の面会室は建造物の奥まった場所にあった。

スペイン人の役人が、無言で彼をその場所まで導いた。



その辺りの廊下一帯には赤い絨毯が敷かれ、ただでさえ壮麗豪奢な建造物内の他の場所よりも、いっそう凝った造りになっている。
いかにも、「特等の間」と言わんばかりの場所であった。

やがて、目を見張るような豪奢な彫刻の施されたドアが見えてくる。
案内の役人は、形だけの礼をして、素早く立ち去った。



トゥパク・アマルは周囲の気配に神経を研ぎ澄ませた。

実際、何が起こっても不思議はない場所である。
これまで、どれほど多くのインカ側の人間の命が、白い役人たちの手で闇に葬られてきたことか。

彼は辺りに注意しつつも、その豪奢なドアに近づき、ノックをした。



「入りたまえ」

中から、太く、しわがれた声がした。


既に司祭が来ているのだろうか。

時間よりもだいぶ早く到着したはずなのだが、と一瞬トゥパク・アマルは戸惑いを覚える。
司祭を待たせたことは、礼を欠くことに思われたのだ。


やや動揺したままドアを開ける。
76
最初 前へ 73747576777879 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ