コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第1章 プロローグ
いかにも煙たそうな表情で、アリアガはトゥパク・アマルの待つ一室へと向かった。


部屋の前ではトゥパク・アマルの腹心――鷲のような野性的な風貌をした厳(いか)ついインカ族の男ビルカパサが、険しい警護の目を光らせている。
アリアガが部屋に近づくと軽く頭を下げて礼をはらって見せるが、その眼は激しい怒りに満ちている。

このインディオも全くいまいましい奴だ。

アリアガは蔑むように冷ややかに一瞥し、ビルカパサの礼を完全に無視して部屋のドアを荒々しく開けた。





部屋の中には、白い絹のシャツにスペイン風の上品な上着を身につけ、一縷の隙も無くいずまいを正したトゥパク・アマルが、能面のような表情でテーブルの前に座っていた。

テーブルの上には、一本の小さなナイフと粗末な布切れが置かれている。


瞬時に、アリアガはそのインディオが何を言いに来たのかを察した。
アリアガの中に憎悪に似た感情がメラメラと湧き上がる。

(こいつは、やることなすことに、いちいち……!!)


「アリアガ殿」

トゥパク・アマルは感情の無い声で言った。


(『アリアガ様』、だろう!
このインディオ野郎め!!)

アリアガは心の中で毒づいた。


「一体、何の用だね。
わしも忙しいのだ。
こう頻繁に来られては、さすがに仕事にさしさわる。
はっきり言って迷惑だ」

そのようなアリアガの言葉など全く聞こえていないかのように、トゥパク・アマルは抑揚の無い声で続けていく。

「今回の領民への強制配給の品は、このナイフと布切れだったそうですね」

「それがどうかしたかね。
ナイフも布も、領民にとっては必要なものだ」


「あなたは、この品々を一体、いくらで貧しい農民たちに買わせましたか?」

トゥパク・アマルは、ゆっくりとナイフを鞘から抜いた。
窓から差し込む斜陽を受けて、ナイフが濡れたように鈍く光る。


アリアガは、一瞬、その肥満で膨れ上がった体を不器用に反らした。

トゥパク・アマルは代官に険しい目を据えたまま、ナイフの刃を相手の喉もと辺りの高さに掲げていく。


「な、何をする…!」

アリアガは引きつった声を上げた。


スッと細めたトゥパク・アマルの目元が、いっそう鋭く光る。

その瞬間、アリアガは確かに殺気を覚えた。

「ひいぃ…誰か……!!」
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