コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第6章 同盟者
トゥパク・アマルは鋭利な面差しで、相手方の一団をざっと眺めた。
褐色の兵ばかり、いずれもインカ族と思われた。
先方もトゥパク・アマルの動きに、まんじりともせず、険しい視線を投げている。
自分のいかなる能動的な動きも、相手を刺激することになるだろう。
トゥパク・アマルはその身を動かさぬよう慎重に肩だけ動かし、オンダを地面に捨てた。
ゴトリと鈍い音がして、彼のオンダが地面に落ちる。
敵方のみならず、味方の護衛も息を呑んだ。
だが、確かに、その瞬間、場の空気が微かに緩んだ。
その機を逃さず、トゥパク・アマルは平常通りの口調で名乗りを上げる。
「わたしは、ペルー副王領ティンタ郡のカシーケ、トゥパク・アマルだ。
シカシカの集落へ商用で向かっている」
トゥパク・アマルが言い終わるか否かという間に、突如、彼の前に戦斧が投げこまれた。
それは、インカ族が武器として用いる、戦さ用の厳つい斧であった。
即座にビルカパサが身を翻し、斧が投げられてきた方角に向かって右手にオンダの石を掲げ、左手で紐の端を握り締めた。
いつでも振り切る姿勢である。
ビルカパサの眼が、鷲のように険しく光った。
「待て」
トゥパク・アマルはビルカパサを片手で制し、戦斧を投げた主の方向を鋭い視線で見据えた。
彼は警戒しつつも、冷静な頭で状況を分析する。
相手は戦斧で斬りかかってきたのではなく、投げてよこしてきたのだ。
その意味は?
恐らく、挑発か――。
少なくとも、即座に命を奪おうという意図ではないらしい。
トゥパク・アマルはビルカパサを制した手でさらに彼を横にどかせ、自分の正面を敵の前に開いた。
そして、身構えながらも慎重に身を屈め、戦斧を手に取った。
ズッシリとした重量感が手に伝わってくる。
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