コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第6章 同盟者
アパサは、神秘のティティカカ湖周辺の部落に住んでいた。
トゥパク・アマル率いる商隊はティティカカ湖を出立し、アパサの屋敷のあるシカシカの部落へ続く道を進みはじめる。
実は、この地域界隈は、かつてのインカ帝国に征服された地域でもあった。
この辺りは、もともとインカ以前(プレインカ)の巨石建築や多数の土器で有名なティアワナコ文明を築いた誇り高い民族の地であり、実際、この時代に至っても、彼らにとってはかつての征服者であったインカの人間を好意的に思わぬ者も少なくはなかった。
そういう意味では、トゥパク・アマルにとって、この地域の民は、スペイン人とはまた別の次元で難しい相手でもあった。
ティティカカ湖からシカシカへの道は、さきほどの神々しい雰囲気とはうって変わって、うら寂しい様相に変わっていた。
人気の無い荒涼たる高原を一本の乾いた道が貫き、やや低くなった土地に稀に耕地が見えるほかは、トーラという木本の植物か、イチュという固い草本の植物が生えているぐらいで、実に淋しい。
しかも、プレインカ時代に作られたとおぼしき、土のチュルパ(家形の墳墓)が所々に林立しているのが見え、商隊員の心をますますうら悲しい気持ちにさせた。
次第に夕闇が迫ってくる。
人気のない道を、100頭ほどのラバと50人ほどの商隊員は整然と列を成し、悄然と進んでいった。
トゥパク・アマルは予測できぬ奇襲に備えて警護の目を光らせるよう指示をし、ビルカパサをはじめ隊員たちの表情も険しくなっていた。
トゥパク・アマルは馬を降り、懐からオンダ(投石器)を出して肩にかけた。
その時だった。
不意に草陰から黒い影が幾つも飛び出してきたかと見えた途端、トゥパク・アマルらの商隊を50~60人の褐色の男たちが取り囲んだ。
ビルカパサが素早くトゥパク・アマルの前に身を投げ出し、敵襲に構える。
商隊員を装っていた護衛官たちも、トゥパク・アマルを守るように円陣を組み、オンダの紐に手をかけて敵の動きに眼を光らせた。
両集団の間に強い緊張感が走り、無言の睨み合いの時が流れる。
62