コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第5章 胎動
風足はさらに強まり、ほどなく彼の全身に横殴りに叩きつけてきた。

それでもトゥパク・アマルは馬を駆り続ける。



長い黒髪が、顔に、背に、べったりとはりつき、無数の雨水がそれを伝って流れた。

雨水は、また、彼の目から頬を伝い、流れ落ちた。
まるで、トゥパク・アマルの涙のように――。





「ブラス様――!」

彼の呻き声は、ますます激しく降りしきる雨の中に、ただ虚しく吸い込まれ、かき消されていくだけだった。






一方、その頃、首府リマでは、いつになく満足気な表情を浮かべた、あの男がいた。
植民地全権巡察官ホセ・アントニオ・アレッチェである。


インディアス枢機会議の本部が置かれた壮麗堅固な西洋建築の中にある、豪華な執務室のソファにゆったりと身を沈め、高級そうな葉巻に火をつけた。

優雅なカーテンに縁取られた窓のむこうは、既に日が落ち、激しい雨が降っている。


アレッチェはゆったりと葉巻をくゆらせながら、何枚かの書類に目を通し、その中から慎重に数枚を抜き取った。
そして、抜き取った書類を蝋燭に近づけ、注意深く一枚ずつ燃やしていく。

ブラス暗殺に関する証拠は、一切、残してはならない。
ブラスの死については、インディアス枢機会議の感知するところであってはならぬのだ。


アレッチェの目が、燭台の炎を反射して、氷のように冷たく光る。


全く、くだらぬ手を焼かせられたものだ。

だが、インディオによって本国のスペイン国王に直訴などされたあかつきには、この植民地の全権巡察官たる己の立場も面子(めんつ)もあったものではない。
そのような事態を未然に防げたことには、やはり安堵の思いがあった。



この一件に関する書類が焼けて灰に変わっていくさまを眺めながら、アレッチェはトゥパク・アマルのことを考えた。

さぞ、悔しがっていることだろう。

アレッチェは唇の端を不気味に吊り上げた。



トゥパク・アマル――もしブラスの後を受けて、おまえがスペイン本国に渡ろうとするならば、今度は、おまえにも同じ運命が待っている。
むしろ、そうなったら、やっかいな懸念の種を一つ片付ける機会となり、結構なことだが。


そんな考えに耽りながら、アレッチェは再び冷酷な笑いを浮かべ、葉巻を灰皿に押しつけた。
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