コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第5章 胎動
(まさか…!
だって、今頃、ブラス様は船でスペインに向かわれているはずだ――!!)


そんなアンドレスの心の声を察したように、ロレンソは、彼もまた非常に苦しそうであったが、搾り出すように続ける。

「ブラス様は身分を隠してスペイン行きの船に乗られていたが、その船上で、何者かに殺されてしまったらしい…」

ロレンソはそこまで言うと、自分の口を押さえて、嗚咽を抑えるように身を屈めた。



(ブラス様まで……そんな…!)

アンドレスは、自分の体が地中深く沈み込んでいくような感覚に襲われた。


愕然とした彼の腕が触れ、ラテン語の教書が鈍い音と共に床に転がり落ちる。

力なくそちらに放心した目をやると、教書の上には、何事も無かったように、ただ静かに西日が注がれていた。






それからしばらくして、首府リマやクスコから離れたトゥパク・アマルらの住むティンタ郡にも、ブラス怪死の話は届いた。


血相を変えたアンドレスの叔父ディエゴは、トゥパク・アマルの屋敷に急いだ。

雨季に入った空は暗く、どんよりと重たく曇っている。


屋敷に着くと、トゥパク・アマルの書斎に急いだ。
部屋に近づくにつれ、中から数名の男たちの呻き声が漏れ聞こえてくる。

中に入ると、もう日も暮れかかっているというのに、灯りさえともすのを忘れられた薄暗い室内は、陰鬱とした重々しい空気に呑み込まれている。


そこにいるのは、主にあのアンドレスの館に集っていた者たちであったが、他にも怒りと悲しみに顔を歪めた数人のインカ族の男たちがいた。

あの線の細そうな混血児フランシスコは、ほとんど泣きそうな顔をしている。
集団から少し離れた部屋の隅では、鷲鼻のビルカパサが、怒りに震える拳を壁に幾度も振り下ろしていた。




一方、部屋の中央では、目を閉じたまま身動きひとつせず、トゥパク・アマルが無言で座っている。

しかし、その肩は不自然に上下し、呼吸は非常に不規則になっていることがわかる。
懸命に感情を押し殺しているのだ。


トゥパク・アマルをよく知るディエゴには、彼の心中は言葉を介さずとも手にとれた。



そして、トゥパク・アマルの傍では、老齢のインカ族の男ベルムデスが、まるで相手の足元に取りすがる勢いで必死に訴えかけていた。

「なりませぬぞ、トゥパク・アマル様!
決してスペインに行ってはなりませぬ!!」
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