コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第5章 胎動
同じ頃、クスコの神学校にいるアンドレスも、不吉な思いに貫かれていた。


彼はラテン語の教書を広げたまま、遅い午後の放課後、授業を終えて人気(ひとけ)のなくなった教室の一隅で、一人の親しい友を前にしたまま身を硬くしていた。
まるで教会のような厳かな雰囲気の室内では、窓から音もなく西日が射しこみ、二人の影を黒々と長くひいている。


今、アンドレスの前に座り、やはり暗澹たる表情をした朋友ロレンソはインカ族の若者で、代々インカ皇帝の片腕として皇帝を助けてきた家臣の末裔でもあった。

ロレンソは理知的な大人びた雰囲気の、アンドレスと同級生の若者で、ラテン語、スペイン語、ケチュア語、キリスト教などのあらゆる学科において、その成績を互いに競い合うライバル同士でもあった。

もちろん様々な身体的な競技でも、二人はその運動神経において凌ぎを削り合う間柄でもあった。
そして、何よりも、ロレンソは物事の本質を見抜く直観力の鋭さのようなものをもっていた。



入学当初はただ競い合うばかりだった二人も、日々の共同生活の中で切磋琢磨しながら互いを知るうちに、その関係性は単なるライバル同士を超えて、次第に「同志」のような間柄に変わっていた。




このようなスペイン人の厳格な監視下におかれた神学校では、表立った政治批判などはもちろん禁忌だったが、二人は大人たちの目を逃れては密かにその思いを語り合った。

また、もともとアンドレスは、自分の身の上について表立って語ることを好まなかったが、勘のいいロレンソは、二人の会話の中で彼の身の上を直観的に悟ってもいた。




そして、今、この放課後の教室で、ロレンソは声を低め、唸るように言う。

「噂は、やはり本当らしい。
あのブラス様が、亡くなられたという…」

「……!!」

アンドレスは耳を疑っていた。


ロレンソはこの神学校のあるクスコの出身であったため、情報を入手しやすく、また、これまでもその内容が正確であることが多かった。


なお、『ブラス』とは、先日のアンドレスの館でのトゥパク・アマルらとの会合の際、スペイン国王への直訴のために海を渡る決意を表明した、あの初老の紳士である。

トゥパク・アマルの血縁者で、民からの信望も篤かった。



ロレンソは青ざめていく友の顔を直視できず、彼もまた苦渋の表情で顔をそらした。
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