コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第5章 胎動
そして、「ほらっ!!」と、その星型の石をコイユールの手の平にポンと投げ渡した。
コイユールの手の平にズシリとした重量感が伝わる。
「重い…!
これ、何?」
「それは、オンダの石!」
そう言いながら、また懐から、今度は毛織の太い紐のようなものを取り出した。
「それで、これは、そのオンダを振り回して投げるためのバンド!」
マルセラが、嬉々として言う。
コイユールは合点がいった。
それは、インカ時代から伝わる伝統的な武器、投石器(オンダ)だった。
恐らく、その星型の石の中央の穴にその紐を通して、振り回して勢いをつけ、石を敵に放つのだろう。
「これ、オジ様から、もらっちゃったのっ!!」
マルセラは叫ぶようにそう言うと、勢いよくコイユールを振り返った。
その目は、まるで星のようにキラキラ輝いている。
多分、『オジ様』とは、あのビルカパサのことだろう。
「そ、そうなの。
良かったね!」
マルセラのその無邪気で、もう夢中な、少年のような様子がおかしくて、コイユールは思わず笑ってしまった。
「何が、おかしいのさ!」
マルセラが頬を紅潮させる。
それから、すっくと立ち上がって、再び瞳を輝かせてコイユールを見た。
「これ、投げてみようよ!!」
「ええ~!」
さすがにコイユールも目を丸くする。
が、一度こうと決めたマルセラの勢いを止められぬことを既に知っているコイユールは、急いで彼女の手を取って、畑のあたりから離れた広々とした空き地の方まで引っ張っていった。
遠くの高台で、リャマの親子が二人の様子を見物している。
「じゃあ、行くわよ!!」
マルセラは興奮気味な目で、その星型の石の中央に紐を通した。
コイユールは周囲に人の気配がないことを確認し、それから、リャマの親子に間違っても石が飛んでいかないように、とマルセラに念を押した。
「そんなこと、わかってるわよ!
あたしの運動神経の良さ、見てなさい!!」
マルセラは鼻息荒くそう言うと、紐を通した石をブンブンと勢いよく振り回しはじめた。
コイユールは慌てて後ろに下がる。
「本当に、大丈夫…?」
マルセラの横顔は真剣そのものだ。
遥か前方の一点を鋭い眼差しで見つめている。
そして、高い掛け声と共に、石を放った。
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