コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
アフィリエイトOK
発行者:風とケーナ
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第5章 胎動
人間たちの様々な思惑が渦巻くアンデスの地にも、季節だけはいつもと変わらずめぐっていく。




今年も夏がやってきて、アンデス高地のこのティンタ郡あたりにも、やっと緑豊かな季節が訪れていた。
この地を流れゆくビルカマユの川は、真っ青な空を映して、いっそう深い碧色に煌いている。


集落の道端に植わった柳やモイェの樹々も、この地の短い夏の光を謳歌するかのように、緑の葉をいっぱいに広げて精一杯に陽光を受けていた。
濃い緑色に染まったジャガイモやトウモロコシ、キノアの畑が遥かに広がり、その間を黄緑色の牧草が谷間を埋めている。



自然からこれほど豊かな実りを授かりながらも、農民たちの手には、その一部すらも残りはしなかったのだが…。

それでも、税を納めねばならなかった。
それができなくなれば、それは死を意味する。



コイユールはささやかな畑で、丁寧に雑草を抜きとりながら、ジャガイモの葉の育ち具合を調べていた。
濃い緑色の葉は厚く、しっかりと成長している。
コイユールはその生命力を愛しく思った。


そして、軽く手の泥を払って、畑の中央に立ち、瞳を閉じた。

それから、畑全体を瞼の裏に思い浮かべた後、太陽と月のシンボルを心に描き、いつものように祈りの言葉を3回唱えた。
静かに意識を集中していると、上空からスッと光が降りてくる感覚があり、その光は全身をめぐりはじめる。

そのまま彼女はイメージの中で、豊穣の願いをこめて畑に光を送った。
イメージの中で、畑全体が光に包まれていく。


爽やかなそよ風が吹きぬけ、頬をかすめていった。

緑の草の香りが風にのって舞うように漂っている。



やがて、その閉じた瞳の奥で、光は、自分の畑を越え、隣の畑も包み、さらに、その隣の隣の畑に、そしてさらには、ずっと遠くの平原を越えて遥かコルディエラ山脈にも届くほどに広がっていく。





「コイユール!」

少し離れた所から、不意に誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。

コイユールはゆっくりと目を開いた。


あの時の少女、アンドレスの館であの夜出会った少女マルセラが、むこうの土手の方から手を振りながら元気に走ってくる。


「マルセラ!」

コイユールも笑顔で手を振り返した。
48
最初 前へ 45464748495051 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ