コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第4章 皇帝の末裔
広い庭の四隅では、赤々と燃え上がる松明(たいまつ)が、熱く濃い闇を焦がしている。

冷たい風が、火照った頬を優しくなでて吹きすぎていった。



外気を深く吸い込み、夜空を見上げる。


高い天頂では、鏡のような美しい満月が、清らかな光を地に降り注いでいる。





気づかぬうちに、頬を涙が伝う。


(インカ皇帝様が生きていた…!)

コイユールはまともに考えられぬほど混乱していたが、にもかかわらず、どこからともなく湧き起こる熱い想いに打ち震えた。



「トゥパク…アマル様……」

コイユールの唇が、その名を囁く。

"トゥパク・アマル"――その名は、インカのケチュア語で「高貴なる炎の竜」を意味する。




涙をふくことも忘れて放心したまま月を見上げていたコイユールは、いつの間にかアンドレスがすぐ隣に来ていることにも気付かなかった。

やがて一陣の強い風が吹き、高く上空さして燃え上がった松明の炎が、人影を浮き上がらせた。

「――!」


ハッと我に返って振り向けば、涙でかすんだ視界の中に、アンドレスのいつもと変わらぬ優しい笑顔があった。

「アンドレス」と言おうとしたが、声が出ない。

すぐ隣にいるはずなのに、とても、とても、遠くに感じられた。



アンドレスの瞳も微かに揺れている。


「マルセラに聞いたんだね」

静かな声で彼が言う。


コイユールは、慌てて細い指先で涙をぬぐうと、小さく頷いた。

「もうっ、本当に……」

"――驚いたんだから!"と、笑顔で言おうとしたのに、むせてしまって言葉にならなかった。




先ほどのマルセラの言葉が、彼女の耳に甦る。

『アンドレス様は、トゥパク・アマル様の甥。
つまり、インカ皇帝のお血筋をひくお方なんだよ!』

胸の奥が、ずきんと痛んだ。



アンドレスは、自分とは全く別世界の人だった。


これまで思っていたのよりも、もっとずっと遠い世界の人だったのだ。
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