コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第4章 皇帝の末裔
「コイユールは両親を鉱山のミタ(強制労働)で、たった6歳の時に亡くしているんです」
アンドレスは大勢の厳めしい大人たちを前にしても、全く物怖じしない堂々とした口調で言った。
「ご両親は、どちらの鉱山に行かされたのだね?」
ひょろりとした細面の繊細そうな、というか、やや神経質そうな面持ちをした別の男が、コイユールに尋ねる。
その男も、アンドレスと同様、インカ族とスペイン人との混血のようだった。
「ポトシの鉱山だと聞きました」
緊張の混ざった震える声ながらも、コイユールは何とか答えることができた。
再び、男たちは深い溜息にも似た声を漏らす。
「標高5000メートルもの高所に坑道が掘られ、火口は赤黒く燃え…あの鉱山での労働は、まるで地獄絵さながらだ。
無期限の過酷な労働、虐待、食べ物もろくに与えられない…!」
アンドレスの叔父は巨人のような拳を握り締め、テーブルをダンッと激しく叩いた。
「畜生め…!」
大男が唸る。
それぞれの男たちの表情にも、強い憤りの色が滲んだ。
「今、ちょうど、ポトシの鉱山の話をしていたところなのだよ」
神殿で見たのと同じ、あの中央に座した人物が、コイユールに視線を向けて言う。
「ご両親のことは、本当に辛かっただろうね」
その目は憤りよりも、むしろ深い悲しみを湛えている。
コイユールは言葉も出ず、小さく頷いた。
他の男たちも頷き、そして、書類を広げて何かの相談に移っていった。
「サンセリテス殿は、殺されたらしい」
先ほどコイユールに両親のことを尋ねた、やや神経質そうな混血の男が小声で言った。
「フランシスコ殿、それは、やはり本当だったのですか?!」
アンドレスの叔父、ディエゴが目を血走らせる。
「フランシスコ殿の言う通り、サンセリテス殿は亡くなられた。
スペイン人たちは隠しているが、毒殺されたらしい。
恐らく、スペイン人たちに暗殺されたのだろう」
初老の紳士が、唸るよう答える。
一同は、また固唾を呑んだ。
またか――という、失望と重々しい空気が流れた。
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