コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
「アンドレス、わたしたちは、どのような立場や境遇にあろうとも、本質は誰もが同じ一人の人間。
そうだろう?

もちろん、そのようなこと、今さら、そなたのように昔から誰にでも分け隔て無き者に言うまでもないことだが。


なあ、アンドレス、この戦さで、そなたがどれほどトゥパク・アマル様からのご期待を受けているか、そなたがインカ軍で果たすべき役割がどれほど重責を伴うことか、わたしなりに良く分かっているつもりだ。

だが、だからと言って、誰かを愛してはいけない、などということはあるまい。


どのような状況にあろうとも、そなたは、変わらず、そなた、なのだ。
無理矢理に己の感情を殺そうとすれば、逆に、無意識の中でそれに縛られる。

己の感情を殺すことと、己の感情を統制することとは、違うのだから…。


アンドレス、そなたの全てをそなた自身が受け入れ、真のそなた自身であってこそ、真の意味で他者の全てをも受け入れられる――それは、将として必要な器でもあると思うのだが」

そう言って、ロレンソは、包み込むような眼差しでアンドレスの瞳を見つめた。


他方、ロレンソの言葉に、アンドレスは息を呑んだ。

コイユールのことなど知る由もないのに、この眼前の朋友は、まるで全てを見抜いているかのごとくに、己の彷徨い求める答えを与えようとしているかのようにさえ思われた。


アンドレスは胸の中に熱いものが込み上げてくるのを感じながら、初めて素直に、この世界で全く初めて、自分の想いを自分以外の者の前に明らかにする。

「とても大事に想う女性(ひと)がいる」


初めて自分の声となって外側からその言葉を聞き、アンドレス自身が驚いたように目を見開いた。

胸の鼓動が、にわかに速まる。


「そうか」

ロレンソは変わらぬ眼差しで、心の内を明かしてくれた友の方を穏やかに見つめた。

「その女性とは、いかなるお方なのか?」



アンドレスの揺れる瞳が、ふと遠くなる。


暫しの沈黙が流れた。


次第に高くなる夏の太陽が、二人の若者の褐色の皮膚に、熱を帯びた陽光を降り注いでいる。
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