コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
ムキになって否定するアンドレスの方に、じぃっと視線を投げながら、「そんなはずはあるまい」と、ロレンソは淡々とした声でいなす。

そして、少しまじめな顔になって、逞しく鍛えられた青銅色の腕を傍の大木に添えた。

「話ぐらいは、わたしにも聞けるぞ」



夏の高地を吹き渡る涼やかな風が、緑の梢を揺らしながら、さらさらと優しい音をたてて過ぎていく。

まるで精霊が奏でゆくような心地よい音色に、二人は暫し聞き入った。


辺りに漂う爽やかな夏の草木の香りを、ロレンソは全身いっぱいに吸い込んだ。

「この景色の中にいると、戦乱の中にあるなんて嘘みたいに思えてくる」


アンドレスも頷く。

「本当に…」


そんなアンドレスの方を、ロレンソは真っ直ぐに見た。

「アンドレス、そなた、誰か想う人があるのであろう」


ロレンソの真摯な眼差しは、決して冷やかしまじりのものではなく、包み込むような誠実さに溢れている。

その瞳に吸い込まれるように、アンドレスは己の首を縦に振りかけるが、ハッと我に返ると慌てて否定した。

「そっ…そんな人、いるわけがないだろう!!」


必要以上に口調に力が入ってしまい、アンドレスは、咄嗟にサッと視線をそらす。

それから、己の意思ではどうにも止められぬままに頬を染め、足元の草地に目を落とした。


ロレンソの視線の先で、もう長い付き合いになる友のそんな横顔は、己の言葉が真実ではないことをあまりにもありありと物語っている。

「わたしにまで隠すことはないのに…」

ロレンソの声は少しだけ寂しそうだった。


「そなたのような、溢れるほどに情感豊かな者が、誰も想う者がないなどありえぬことだ。
そんなことなら、むしろ、その方が不自然というものだ」


揺れる眼差しで顔を上げたアンドレスに、ロレンソは目を細めて頷いた。
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