コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
あくまで静かに、一言一言を丁寧に話していくトゥパク・アマルの言葉を、しかし、フランシスコの遮断された心は、果たしてどれほど聴き取れていたことであろうか。


呆然と宙を見据えるフランシスコに、トゥパク・アマルは、精一杯の誠意を込めて、再び言う。

「わたしは、そなたを失いたくないのだ。
分かってくれるね」

それは、トゥパク・アマルの紛れもない真実の言葉であった。


しかしながら、もはや極度の自己卑下と疑心暗鬼に取り憑かれたフランシスコに、トゥパク・アマルの真心が果たしてどこまで伝わったであろうか。


この役立たずの自分は、ついにトゥパク・アマル様にも見放されたのだ――!!


フランシスコは自分の足元が音を立てて崩れ落ちていくようなひどい感覚に襲われながら、一言も発することのできぬままトゥパク・アマルに一礼すると、柳のように頭を垂れて踵を返した。


フランシスコのうな垂れように強い懸念に駆られたトゥパク・アマルが、思わず寝台から立ち上がる。

が、その瞬間、まるで高圧電流が流れたかのように、術後の傷跡に尋常ならざる激痛が走った。

トゥパク・アマルは、その場に崩れるように跪く。


「フランシスコ殿……!!」

苦しい息の中、去りゆく後ろ姿に急ぎ呼びかけるが、もはやトゥパク・アマルの声も耳に入らぬほどに落胆したフランシスコは、そのまま消え入るように天幕を後にした。






ところで、トゥパク・アマルの指示のもと、昨夜からインカ軍の被害状況を調べていたアンドレスは、今、負傷兵たちの呻き声と血生臭い空気の充満する治療場を訪れていた。


治療場と言っても、本営の一隅の露天の空き地、及び、幾つかの専用の天幕が張られただけの極めてシンプルな場所である。

ただし、一見簡素なこの治療場ではあったが、そこに投入される食料や医薬品などの物資の手厚かったことは、いかにもあの道義心に厚い総指揮官トゥパク・アマルの陣営らしいことであった。


さらに、トゥパク・アマルの思いをそのまま反映するかのように、負傷兵たちに対して、多数の従軍医やインカ族の女性たちが真心込めたいたわりの言葉をかけ、健気なほど熱心に看護に当たる姿がとても印象的であった。
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