コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
だが、フランシスコは、不意に現実に引き戻される。

あの戦場での己の醜態に関することを、今、トゥパク・アマルは何か言おうとしているのだ、そう直観すると、背筋にゾクリと悪寒が走った。


短い沈黙の後、意を決したように、トゥパク・アマルが口を開く。

「そなたは、暫く戦場に出てはならぬ」


トゥパク・アマルの声は、どこまでも穏やかであったが、ひどくきっぱりもしていた。


既に青白いフランシスコの顔面が、サッと血の気を失い蒼白になっていく。

その目には、悲痛な色が激しく浮かび上がった。


そのようなフランシスコの表情を見るトゥパク・アマルもまた、非常に苦しげになる。


トゥパク・アマルは、己のがっしりとした右腕をフランシスコの方に真っ直ぐ伸ばし、しなやかな褐色の指で相手の肩をしっかり掴んだ。

そして、真正面から、フランシスコの瞳を見据えた。


「今のそなたの心理状態で戦場に出るのは、自ら死にに行くようなものだ。

フランシスコ殿、どうか誤解をなされるな。
わたしは、そなたの心が、あのような戦場を耐え難いと感じていることを、決して責めているのでも、咎めているのでもない。

あれほどに残虐で血生臭い戦場を耐え難いと感じるそなたの感性は、全く恥じるものではない。
むしろ、それは、人として、備えていて然るべき美徳とも言えるものであろう。


とはいえ、時と場面によって、求められる感性は異なってくる。
あのような戦場では、人の血肉を見ても、何も感ぜぬような者の方が、結局は、よく動け、生き延びる。

どちらが良い、悪いではないのだ。

人は、それぞれ、己を偽らずにいられる場面でこそ、その力を存分に振るうことができるものだ。
それは、戦乱の今の世とて、変わりはせぬ。

今の状況とて、実際、戦場以外でも為すべき仕事は山ほどあるのだから。
フランシスコ殿、賢いそなたなら、わたしの話しを分かってくれるね?」
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