コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
アフィリエイトOK
発行者:風とケーナ
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
フランシスコがおずおずと天幕の中に入ると、トゥパク・アマルは寝台の上に身を起こして腰掛け、何やら自分で腕の包帯を巻き直しているようだった。

自由に動く右手だけを使って、左腕の傷口に何とか巻きつけようとしているのだが、器用なトゥパク・アマルには珍しく、なかなか苦戦している様子である。


トゥパク・アマルはフランシスコの方に視線を向けて、軽く肩を竦めて笑顔をつくった。

「やはり医師のようには、うまく巻けないものだね。
いや、一晩たったら、何だかほどけてきてしまってね」


「お手伝いいたしましょう」

フランシスコは急ぎ足でトゥパク・アマルの傍に近づくと、身を屈めて包帯を受け取り、丁寧に巻きはじめた。

「ありがとう」

トゥパク・アマルもフランシスコに任せ、穏やかな眼差しで、包帯を巻く相手の手つきを見守る。


「トゥパク・アマル様…もう起き上がって大丈夫なのですか?
まだご安静にしていた方が……」

「なに、案ずることはない。
それより、こうしていると、何やら懐かしい気分になる」

トゥパク・アマルが、ふと呟いた。


え?――という眼差しで、フランシスコが顔を上げると、トゥパク・アマルは少し遠くを見るような目で、「昔、そなたとわたしが、まだクスコの神学校にいた頃、よく、そなたがこうして包帯を巻いてくれたではないか」と言う。

「ああ」

包帯をほぼ巻き終えながら、フランシスコも懐かしそうな声音になる。


「そうでしたね。
あの頃のトゥパク・アマル様は、なかなかの腕白者でしたからね。
よくお怪我をされていた」

「あの頃から、そなたは、まるでわたしの親代わりのように、よく面倒をみてくれていた」


トゥパク・アマルの穏やかな声に、思わずフランシスコはトゥパク・アマルの方に向き直る。

トゥパク・アマルは柔和に目元を細めながら、フランシスコに微笑んでいた。

その眼差しに吸い込まれるように、フランシスコもトゥパク・アマルを見つめる。


「ずっとそなたがわたしを見守ってきてくれたように、今度は、わたしがそなたを守りたい。
だから、わたしがこれから言うことをきいてほしい」

トゥパク・アマルの声は、あくまで静かで、誠実で、深く澄んでいる。
342
最初 前へ 339340341342343344345 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ