コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
「しかしながら、この後も戦さは続きます。
このまま戦場に出られては、フランシスコ殿のお命が危ういのみならず、彼の指揮下にある軍勢の命をも危険に晒すことになりましょうぞ。
何らかの対処をとらねばなりません」

既に厳しくなった武人の声でディエゴが言う。


「うむ…」

トゥパク・アマルも考え深げな目になり、再び、じっと天幕の天井を見やった。


ディエゴもつられるように、ふと天井を見上げる。

天井では、また蝋の減りはじめた蝋燭の投げかける黒い影が、まるで二人に覆いかぶさる魔物のごとく、ゆらゆらと不気味に揺れていた。







同じ頃、やはり深い悲愴と苦悶の表情で、まるで地底のような暗澹たる深夜の闇の中で、草地に蹲っているコイユールの姿があった。


トゥパク・アマルの治療の後、一旦は負傷兵の治療場に戻った彼女であったが、まるで仕事に手がつかぬ状態であった。

苦痛に喘ぐ負傷兵たちを前にしながら、己の手元のおぼつかなさから、かえって兵たちの症状を悪化させかねぬような強い危機感まで覚えるほどであった。


そのような己の状態にひどく嫌悪感を、そして、負傷兵たちに対して深い罪悪感を抱きつつ、コイユールは逃れるように治療場を走りぬけ、己の寝所のあるビルカパサの天幕近くの草むらに走りこんだ。

とはいえ、他の兵たちも集っている天幕に戻る気持ちには今はなれず、姿を隠すように、夜露を含んだ草の上にしゃがみこんだ。


そのまま息を詰めて、まるで銅像のように固まっていく。

瞳には、いつしか涙が膨れ上がり、やがて頬を伝って流れた。



あれほど畏敬と憧憬の対象であったトゥパク・アマルと間近で言葉を交わせたというのに、その感慨を噛み締めるよりも、彼女の脳裏には、先刻のトゥパク・アマルの施術時に見てしまった呪わしい光景ばかりが嵐のように渦巻いていた。


神々しく黄金色に輝く太陽のような光が、突如、赤黒く変色し、その赤黒いものが溶岩のように宇宙に流れ出し、美しい宇宙を呑みこんでいく――あのおぞましいヴィジョンを必死で掻き消そうとすればするほど、さらに濃厚に、強烈に、いっそうの臨場感を伴って喚起されてくるのだった。
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