コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
ディエゴは深く頷き、太い武人らしい声で諭すように言う。

「このような時こそ、あなた様に強くあっていただかねばなりません。
これからが正念場なのですから」

「そうだな」


トゥパク・アマルは頷き、目前の頼もしい従弟、ディエゴの勇壮な姿を改めて見つめ、目を細めた。

もし、わたしに何かあった時には、自分の後を受けて、この男がインカ軍の総指揮をとっていくことになるであろう――と、そこまで考え、再び、はたと我に返って苦笑した。

まただ…、どうも今宵は本当に気弱になっている。


そんなトゥパク・アマルを、ディエゴも少々訝し気に見つめていた。



暫し長めの沈黙が流れ、それから、やや言いにくそうにディエゴが口を開く。

「このような時に、申し上げにくいことなのですが…、お耳に入れておいた方がいいかと思うことが」


どこか所在無げな様子になり、口ごもりながら言うディエゴの方を、トゥパク・アマルが見た。

「何でも申してみよ」


その穏やかな声に、意を決したようにディエゴが話し始める。

「実は、フランシスコ殿のことなのです。

今日、戦場で、塹壕の中に蹲(うずく)まられて、ひどく震え、発汗も呼吸も激しくなっておられた。

何故、あのような状態でおられたのか全く分からないのですが、まるで敵の攻撃を恐れ、それから必死で逃れようとしているかのようにさえ見えました。

幸いお助けできたが、あのままでは、お命も危うかったものと存ずる」


そう言って、この猛将ディエゴにとっては全く信じがたいあの光景を思い起こすかのように、鋭く遠くを見据える目になった。

そのディエゴの目には、案ずる色と共に、苦渋と、そして、険しい色味が強く浮かぶ。


「そうであったか。
フランシスコ殿が…」

対するトゥパク・アマルの声にも確かに苦渋の色が滲んでいたが、むしろ深く案ずる色の方がずっと濃厚にうかがえた。


「フランシスコ殿はお心の優しい繊細なお方だ。
このような血生臭い戦場は、あの方には耐え難いのであろう」

そう語るトゥパク・アマルの横顔を無言でうかがいながら、ディエゴは、それはあなた様のお気持ちでもありましょう、と心の奥で思う。
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