コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
コイユールは意を決した表情で医師の目に頷き返し、それから、トゥパク・アマルの寝台の脇に跪いたまま、両手をそっとトゥパク・アマルの傷口の傍に添えた。

トゥパク・アマルの引き締った筋肉の感触が、コイユールの細い指先にはっきり伝わってきて、彼女は一瞬はじかれたように指を浮かした。


コイユールは己の指先を呆然と見た。

まるで電流に打たれたように、その指先が、ひどく痺れているのを感じる。


コイユールの心臓が、早鐘のように、恐ろしく速く打ち始めた。


自分の反応の大きさに、彼女自身が驚愕しながら、トゥパク・アマルにその様子が悟られてはいまいかと慌てて目をやる。

が、幸いにも、彼は手術の開始に向けて精神統一をするかのように、じっと固く瞼を閉じていた。


決して苦痛を表に出さぬよう己の感情と感覚を厳しく律する気迫も相まってか、初めて直近で見るトゥパク・アマルの横顔は、コイユールの瞳の中で、ブロンズの彫像のように完全な均整を保ち、研ぎ澄まされ、息を呑むほど美しかった。


(ああ…落ち着いて、落ち着いて――!!)

必死で自分を宥めながら、コイユールは、再びトゥパク・アマルの腕に指を添えた。

心臓の鼓動が張り裂けそうに鳴り響き、本来は温かくなければ施術にならぬ指先は、逆に冷え切り、震えている。


コイユールはトゥパク・アマルの腕からまた指を離すと、己の両手を擦り合わせて懸命に温めようとした。

その額には、冷や汗さえ滲んでいく。


しかし、従軍医がトゥパク・アマルの腕を紐で固く縛って止血し、それから、傷口に術具の刃物を近づけていく様子を見た瞬間、彼女の心はまるで色が変わるように、サッと冷め、急速に平静に戻っていった。

(トゥパク・アマル様に、痛みを感じさせてはならない…!!)



コイユールの指が吸い寄せられるように、トゥパク・アマルの腕に添えられる。


彼女は瞳を閉じると、いつもの太陽と月のシンボルを脳裏に描き、それから、秘伝のマントラを心の中で3回唱えた。

己の全意識をトゥパク・アマルの傷口に集中させる。


すると、いつものように上空からサッと光が彼女の頭上に降りてきて、頭から首、腕を経由して、そのまま手の平から、光がトゥパク・アマルの中に流れ込んでいくのが感じられる。
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