コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
不意に温かいものを感じて、ハッと振り返るコイユールの瞳の中に、天幕を出て行くアンドレスの後ろ姿が映った。

(アンドレス…!!)

瞬間、コイユールの胸にも切ないものがよぎる。

しかし、今はすぐに目前の重要な仕事に意識を戻した。



「それでは、トゥパク・アマル様、まずは、痛み止めの薬草をお飲みください」

従軍医の指示に従い、トゥパク・アマルが薬草を口に含む。

護衛のために天幕に残ったビルカパサが、彼もまだ癒えぬサンガララ戦での傷口に痛々しい包帯を巻いていたのだが、施術の始まることを確認すると素早く天幕を出て、その入り口の外側に立った。


「トゥパク・アマル様、これから手術をさせていただきますが、御腕を切り、縫うなどございます。
薬草も手術に伴う痛みをとる役に立つとは思いますが…、誠に恐れながら、それだけでは十分ではございません。

こちらに連れて参りました娘は、手を触れるだけで、薬も何も使わずに痛みを和らげるという不思議な力をもっております。
手術の手伝いをさせたいのですが、よろしゅうございますか?」

そう問いかけると、従軍医はトゥパク・アマルの方に恭しく頭を下げた。

コイユールも、それに合わせるように、深々と頭を下げる。


従軍医は畏まりながら、改めて問う。

「トゥパク・アマル様、施術中の痛みを和らげるために、こちらの娘にトゥパク・アマル様の御腕に触れさせてもよろしゅうございますか?」


従軍医の深刻な声に、トゥパク・アマルはゆっくりと首を傾け、コイユールの方に視線を向けた。

コイユールはあまりの緊張から、すっかり身を固めて顔を上げられない。

「そんなに緊張せずとも良い」

トゥパク・アマルの静かな声に、コイユールは伏し目がちなまま、僅かに顔を上げた。


緊張の高まりからなのか、すっかり頬を上気させながら揺れる瞳で己を見つめる彼女の方に、「よろしく頼む」と真摯な眼差しで言うと、トゥパク・アマルはすぐに真っ直ぐ天井の方に向き直り、目を閉じた。

従軍医はいよいよ真剣な表情になって傷口を確かめてから、緊迫感の中にも医師らしい冷静さを保った面持ちで手術道具を手に取ると、コイユールに目で合図を送る。
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