コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第17章 苦杯
従軍医は、瞬間、声をかけることも憚られたが、思い切ったように「コイユール」と、呼びかける。

従軍医の声に僅かに顔を上げたコイユールは、その目に涙を滲ませ、悲嘆と悔しさとに満ちた、ひどく苦渋な表情である。


従軍医はその目の色に応えるように、彼もまた苦しげに瞳で頷き、それから、コイユールに真っ直ぐ向き直って言う。

「すぐにトゥパク・アマル様のお怪我の手術をしなければならないのだ。
手伝ってほしい」

「ええ!
トゥパク・アマル様が、手術?!」

「シッ…!
他の者に聞かれたら、いたずらに不安を煽ることになる」


従軍医の言葉にコイユールはハッと口を押さえながらも、負傷兵が亡くなったばかりの冷めやらぬ衝撃に、新たな衝撃をぶち当てられたかのような悲痛と驚愕の表情で、身を震わせながらその場に凍りついた。

「トゥパク・アマル様が、そんなに大変なお怪我をされたのですか?!
そんな…手術だなんて…!」

周囲に聞こえないように声を押し殺して言いながら、ただでさえ苦渋に満ちたコイユールの表情は、みるみる蒼白になっていく。


従軍医は、深く眉間に皺を寄せた深刻な表情で「そうなのだ」と頷く。

「すぐに手術をしなければならない。
おまえに、手術中の痛みを和らげてほしいのだよ」

コイユールは、思わず目を見開いた。

「でも…!!
そんな…手術中の痛みをとるなんて、私、やったことがありません…!」

「コイユール、そんなことを言っている場合ではないのだ。
たいそう酷いお怪我を負われているのに、トゥパク・アマル様は意識がおありになるのだ。
手術に伴う激痛は、鎮痛の薬草だけでは間に合わぬ。
確かに、おまえの力がどれほど効果があるかはわからぬが、何もせぬよりは、僅かな可能性にも賭けてみたい。
とにかくやってみておくれ」


従軍医は非常に真剣な表情で、コイユールの顔を見据えている。

コイユールは、固唾を呑んだ。


しかし、意を決したように頷く。

もはや迷っている時間も、選択の余地も無いのだ。

「わかりました…やってみます」

従軍医も深く頷き返した。
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