コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第15章 使者
アンドレスにしみじみそう言われて、マルセラは「いえ、私はただ書状を渡しただけで…」といったようなことを呟きながらも、嬉しそうに顔をほころばせる。

アンドレスも優しい笑顔を返す。
その彼の視線に、マルセラは明らかに頬を染め、さっと視線をはずした。

一方、そんなマルセラの様子に、傍で見守っていたロレンソは複雑な目の色になる。


そのような若者三人ではあったが、程なく、アンドレスが勢い良く愛馬の手綱を繰った。

「さあ、急ごう!
トゥパク・アマル様も、君の無事な姿と司祭の返事を、今か今かと待ち侘びているに違いあるまい」

彼の言葉に促され、マルセラたちも後を追うようにしてトゥパク・アマルの天幕へと急いだ。




かくして、マルセラからの報告を受けたトゥパク・アマルは、モスコーソの返答はもちろん朗報ではなかったものの、しかし、何よりも「マルセラ、よく無事で戻ってくれた。危険な大役、誠にご苦労であった」と、深くその労をねぎらった。

マルセラも、そして、彼女の叔父であるビルカパサも、深々と頭を下げた。

トゥパク・アマルの側近たちも、敬意を込めた温かい眼差しでその様子を見守っている。


その後も、トゥパク・アマルは、その包み込むような眼差しで幾度か頷いていたが、やがて己の褐色のしなやかな指先を軽く額に添え、遠くを見つめるような目に変わった。

側近たちの誰にも見えぬ彼の瞳の奥底で、激しい悲壮な色が燃え上がる。


モスコーソ殿、そなたは、このインカの聖なる都を血の海と化すおつもりか――!!




微かに震える瞼を、だが、決して周りの者に悟られまいとするように、額に添えたその指で、漆黒の髪を静かに掻き上げた。

暫し流れる僅かな沈黙の間に、トゥパク・アマルは、懸命に、素早く、己の感情を統制する。

そして、低く響く声で言った。

「やむを得まい。
これより、臨戦態勢に入る。
兵及び塹壕の状態を確認せよ。
且つ、大砲をクスコに面した斜面に配備せよ」
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