コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第15章 使者
口惜しい!!――石を握り締めるマルセラの指が、悔恨とやるせなさで震える。

しかしながら、これ以上、ここに留まろうとも状況の変わらぬどころか、かえってモスコーソの憤激を刺激するばかりであろうことは明らかだった。

マルセラは血の滲むほどに唇を強く噛み締めながらも、深く礼を払い、その場を退くしかなかった。


「あのまま帰してもよろしいのですか?!」

戦時委員会の面々はモスコーソに詰め寄る様子を見せたが、「余は司祭ぞ。あのような、か弱き者に手をくだせるか」といったようなことを嘯(うそぶ)くと、「それより、いよいよ戦闘ぞ!!臨戦態勢を早急に整えよ!!」と、あの魔人のごとき形相で言い放った。






クスコの城門の方から馬を駆り、再びその姿を見せたマルセラを、送り出したのと同じ場所で待ち続けていたロレンソの一行が、深い安堵の表情で迎え入れる。

ロレンソの前まで駆けてくると、マルセラはゆっくりと馬を止めた。


既に日は高く上り、トゥパク・アマルらの占拠したピチュ山の背景には、夏の晴天が蒼く輝いている。

その青空の下で、マルセラとロレンソは、暫し言葉も無く互いを見つめた。

それから、「よく戻られた!!」と、ロレンソが深い安堵の滲む声で言う。


マルセラは礼を払いながら頷き、それから苦しげな面差しに変わる。

「駄目だったわ…!」

愛馬の手綱を握る指を握り締めながら、彼女は唇を噛んだまま、地面に視線を落とした。


ロレンソも、思わずクスコの城門の方に鋭い視線を投げる。

瞬間、その鋭利な横顔に、非常に険しい表情が浮かんだ。

いよいよ血で血を洗う戦闘になる!!――互いの脳裏の中を、今後の事態を予見するかのように、不穏な情景がよぎっていく。


だが、ロレンソはその視線を戻し、ともかくも目前のマルセラを励ますように、落ち着いた声で言う。 

「そなたは身の危険も顧みず、立派に役目を果たされた。
トゥパク・アマル様のお考えを、直接、司祭殿にお伝えすることができたことは、それだけで十分に意義がありましょう。
トゥパク・アマル様のお心は、司祭殿にも必ずや伝わったに違いあるまい」


その言葉に、微かな救いを見出すようにマルセラが顔を上げる。
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