かくして、夜明けと共に、トゥパク・アマルや側近たちに見守られる中、トゥパク・アマルの書状を携えたマルセラと、そして、護衛のロレンソ及び彼の配下の兵たちは、クスコ市の城門目指して馬を駆った。
愛馬に跨り、朝陽を受けながら風を切って傍らを駆け行くマルセラを、ロレンソは無言で窺った。
マルセラは、金糸で太陽の紋章が施された紺色のビロードの服を纏い、肩から緩やかに巻きつけた緋色の短マントを風に翻し、短く切り揃えた黒髪には銀色に染め上げられた絹のバンダナを巻いていた。
それは、己の使者として不足の無きよう、且つ、この国最高位の司祭たるモスコーソに礼を失することの無きよう、トゥパク・アマルが自ら厳選したインカ皇族の特別な正装であった。
昇りゆく太陽を背景に、完全に決意を固めた面差しで前方をキッと見つめ、高貴な身なりに身を包んだマルセラは、透明感溢れる中性的な美しさが際立ち、輝くような光を放って見える。
強い緊張感が、凛々しい横顔を鋭利に引き締め、初々しくも気高い美しさをさらに高めてもいた。
しかも、幼き頃から男勝りで運動神経もずば抜けていたマルセラは、やはり人並み外れて武勇に秀でたロレンソを凌ぐほどに軽やかに馬を乗りこなし、その疾走速度も驚くほどに速かった。
特等の高貴な身なりで、陽光を受けながら疾風のごとく駆けゆくマルセラの勇姿は、ロレンソの目の中で、一瞬、真に太陽の中から舞い降りてきた華麗な天使のように見える。