コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第15章 使者
その頃、インカ軍の中枢部でそのようなことが起こっているなど、露ほども知る由のない一介の義勇兵であるコイユールは、その晩もインカ軍本営の一隅に設けられた負傷兵たちの寝所で過ごしていた。

日ごとに増加する負傷兵たちの看病と、そして、痛みを訴える兵たちに、その特有の自然療法を施して苦痛の緩和を図るために、最近では、夜間に自分の寝所に戻る時間もままならぬほどになっていた。


「楽になったようだ」と、少し元気を取り戻した笑顔を見せる負傷兵の傷口に添えていた手をそっと離し、コイユールも静かに微笑む。

「痛みが強くなったら、またいつでもお声をおかけください」

そして、兵にきちんと礼を払い、音を立てぬようにその場を離れた。


テントの隙間から見上げる群青色の夜空に描き出される夏の星座は、既に深夜の位置である。

コイユールは、累々と横たわる負傷兵たちの姿を見渡した。

皆、一応の眠りにつくことができたようで、痛みを訴えている者も今は見られない。

ほっと小さく安堵の溜息をつき、少しだけ仮眠をとるために、同じく負傷兵たちの看護に当たっている女性たちの眠るささやかな臨時の寝所に向かう。



真夜中の初夏の涼風が、彼女の疲れた体をいたわるように優しく吹き抜ける。

その時、ふと草陰の方から人の気配を感じ、コイユールは、はたと周囲を見渡した。


少し前方で、黒い大木の陰に溶け込むようにして、立ち竦んでいる者の姿が見える。

コイユールは目を凝らした。

「マルセラ?!」



驚いているコイユールの方に、マルセラは「来ちゃった!」と、はにかみながら片手を上げた。


その表情に、コイユールは、マルセラが隠そうとしている不安気な色を瞬時に読み取ってしまう。

「マルセラ、何かあったのね?」

「ん…。
夜が明けたら、クスコに行くことになったんだ。
トゥパク・アマル様の使者として」
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