コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第3章 邂逅
そして、母親は、まだ幼いコイユールの頬を撫でながら、優しく微笑んだ。


その時、母親の目に光っていた涙の理由を、まだほんの6歳だったコイユールには理解できなかった。
だが、今はその意味がわかる。

母親は、もう二度と娘に会えないことを覚悟していたのだ。


そして、今、こうして12歳に成長したコイユールには、母親の言葉の意味が心に染みるように理解できた。

(お母さん…!)

思わず心の中で母親に呼びかけた。
母親の優しい眼差しが再び瞼の裏に浮かび、目頭が熱くなる。



やがてコイユールは、成長と共に、その療法を自分や祖母のためだけにではなく、他の人の要望に応じても使うようになっていた。

何しろ、貧しいインカの人々は薬草も満足に買えなかったし、コイユールは母の言いつけをよく守って、決してそのことによって金銭を受けることもしなかった。
気休めにすぎないと言う者もあったが、幾らかは薬の代替療法としての役割は果たしていた。


そんな彼女の噂は少しずつ集落に広がり、いつしかこの館の夫人の耳にも届いた。
それ以来、夫人の求めに応じて、ここを折々に訪れるようになっていたのだった。





フェリパ夫人への施術が終わると、アンドレスはコイユールを自室に呼んで、改めて二人で再会のひとときを共にした。


アンドレスの部屋には立派なカーテンに縁取られた明るい大きな窓があり、そして、堂々とした複数の書棚に多くの書物が並んでいる。

コイユールは、興味深そうにそれらの書棚を眺めた。
とはいえ、もともとインカには文字はなく、また、まともな教育を受けることもできなかった彼女は、残念ながら、文字を読むことは出来なかったのだが。



アンドレスは鞄の中から一冊の使いこんだ本を取り出して、彼女の前に差し出した。


「これは?」

珍しそうに眺めるコイユールの前で、アンドレスは本をぱらぱらと開いて見せた。
スペイン語らしきアルファベットや単語が、美しい絵と共に並んでいる。

「文字は、私、読めないわ」


アンドレスは頷いて、そして、その本をコイユールに渡した。

「これからはスペイン語を読めた方がいいよ、何かとね。
だから、その本は君にあげるよ。
学校で最初の年に使った教科書だ」
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