コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第15章 使者
トゥパク・アマルは包み込むような眼差しで、夕陽に照らされ、黄金色の輝きを放つ旧都を見つめ続けた。
まるで、その街並みに息づくインカ帝国時代の面影を愛しむように。
それから、武人の険しい目になって、鋭くも考え深げな表情に変わる。
(このままでは、クスコはこれまで以上の激しい戦闘に晒されることになるであろう。
だが、この都には、血と火をもっての入城などしたくはない!)
トゥパク・アマルは、スッと目元を細めた。
できることならば、流血の惨を見ずにクスコを占拠したかった。
このクスコの地まで荒らすことは、モスコーソによるトゥパク・アマルらのキリスト教破門宣告以来、スペイン側とインカ側との間で身の置き所を見失い、深い葛藤状態にある当地生まれのスペイン人たちの心を、さらに離反させる危険性をあまりにも多分に孕んでいた。
また、クスコ在住のスペイン人名士たちには、「己がスペイン国王カルロス三世の名代として、悪代官討伐の軍を起こしたのだ」などといった方便の虚偽は、もはや通用せぬことも知っていた。
そして何よりも、インカの人々の魂の故郷にも等しきこの聖地を、これ以上、戦乱に巻き込み、血で汚し合うことなどしたくはなかったのだ。
(不用意に戦闘をしかけることが、必ずしも得策とは思われぬ…!)
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