ところで、この頃、スペイン側の情勢はいかなる様相を呈していたであろうか。
トゥパク・アマルが釈放した捕虜たちの帰還によって、サンガララにて討伐隊が壊滅したことを知ったクスコの戦時委員たちが、顔面蒼白になったことは言うまでもない。
しかも、帰還したスペイン兵たちは、「インカ軍を決して侮ってはなりません!!」と、口々に報告した。
インカ軍討伐に猛り狂うモスコーソ司祭などは、サンガララの敗戦を聞くに堪えず、ついにはその場で眩暈を起こして失神するほどの有様であった。
かくして意識を取り戻したモスコーソの目は、もはやこの世のものとは思えぬほどに爛々と奇態な光を放ち、ひどく歪んだその形相は不気味な笑みさえ湛えている。
「サンガララの地にて、あのトゥパク・アマルは、ついに――ついに教会を血をもって汚しおったのじゃ!!」
叫ぶようにそう言うと、僧衣の袖をバサバサと激しく振り回し、集まっていた戦時委員会の面々を狂気の眼で見渡した。
委員会のメンバーたちは、皆、恐れ慄いて、思わず椅子を後方にひいた。
モスコーソは雷(いかずち)を振り下ろすがごとくの勢いで、その拳をテーブルめがけて叩きつけた。
彼の胸元の巨大な十字架が、激しく左右に揺れる。
「トゥパク・アマルとその一党をキリスト教から破門するのじゃ!!
破門じゃ!!
破門するのじゃ!!」
トゥパク・アマルらの「破門」を唾を飛ばしながら狂ったように叫び続けるモスコーソを、委員会のメンバーたちは気圧された表情で見上げながら、しかし、「もっともなことでございます。モスコーソ司祭様!」と、口々に同意した。