コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第14章 忍び寄る魔
今、呆然と見開かれたアンドレスの瞳の中で、フランシスコのその微笑みは何かひどく不可解な気配を放って見えた。
喉元に何かが詰まったようにアンドレスは息苦しさを覚え、やっとのことでゴクリと生唾を呑み下す。
辺りの空気が、まるで水底のように冷え冷えと感じられた。
己の目と耳を疑うように、彼は瞬きをして、頭を振る。
それから、改めて息を殺してフランシスコを見た。
が、フランシスコの眼差しは、これまで知っていた人物とは別人のように、背筋も凍らぬばかりの異様な色味を湛えた微笑みを浮かべたまま、微動だにせずアンドレスを見つめている。
アンドレスは混乱の極みに達したまま、それでも懸命にその混乱の糸を解こうと、フランシスコの方に身を乗り出して擦れた声を絞り出す。
「フランシスコ殿…待ってください…。
え…?
戦場で、あなたは…。
あ、今、何と……」
しかし、あまりに混乱した頭では、どこから何を聞いていいのかさえ分からない。
かたや、フランシスコは不意に真顔になった。
「トゥパク・アマル様に、このことを話すか?
アンドレス」
「…!」
グッと言葉を呑み込んだまま硬直しているアンドレスを見上げるフランスコの表情は、今は完全に笑みをひそめ、みるみる固く強張っていく。
「このようなことをトゥパク・アマル様や他の側近たちに知られたら、わたしの立場も信用も完全に無くなる。
アンドレス…そなたを見込んで打ち明けたのだ。
分かるね…?!
これは、そなたとわたしだけの絶対の秘密だ」
「で、ですが…これからも戦さは続くのですよ…。
お一人で抱えられるよりも、本当のことを打ち明け、フランシスコ殿のお心の負担が軽くなるよう、トゥパク・アマル様とも相談をされる方がよいのでは…」
混乱から抜けきれぬまま、それでもアンドレスは精一杯の穏やかな口調で宥めるように語りかける。
だが、フランシスコは、「だめだ!!絶対に、話さないでくれ!」と険しく制すると、懇願するような目の色に変わり、縋りつくように言う。
「後生だ、アンドレス…!!
これ以上、生き恥を晒せようか…わたしの気持ちを分かっておくれ!!」
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