コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第14章 忍び寄る魔
その夜、アンドレスとコイユールは、野営場のそれぞれ別の場所から、同じ月を見ていた。

先ほどまで降りしきっていた雪が嘘のように空は澄み渡り、早くも初夏の星座が輝いている。


標高の高いアンデスの地では、手に届くほどの近さに、無数の星々を感じることができる。




コイユールは治療場へ戻る足が止まったまま、震えるような瞳で、白々とした光を地に注ぐ月を、そして、星々を見つめていた。

先刻のジェロニモとのやり取り、そして、トゥパク・アマルの側近たちの負傷の姿、次々と治療場へ運び込まれる負傷兵たちの悲惨な状態が、生々しく脳裏に去来しては、嘔気を伴うほどの激しく不穏な感情を巻き起こした。


コイユールは堪えきれず、草の上にうつ伏して声を殺して泣いた。

(もしアンドレスがいなくなったら…この世界からいなくなったら……!!)




そして、アンドレスもまた、人気(ひとけ)の無い、いつもの素振りの練習場所で、粛々と白く輝く月を見上げていた。

あの修羅場のような戦闘が数時間前には展開していたなど、まるで別世界のことのように、美しく清らかな星たちが煌いている。


手の中にあるサーベルも、先ほど慎重に血糊を拭き取ったために、今は何事も無かったように月明かりを反射して滑らかに輝いている。

だが、彼には、いつもと変わらぬ風情で清い光を放つそのサーベルが、どこかひどく白々しく思われた。


あれほど残虐に人々を斬り刻み、唯一無二の命を奪い去り、獰猛な魔物のごとくに夥しい生き血を吸ったくせに!!


まるで汚れたものでも振り払うように、彼はサーベルを地に放り出した。
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