コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第14章 忍び寄る魔
「アンドレス!!
…やっぱり…!!
もっと詳しく教えて、ジェロニモ。
そのお方の、戦場でのご様子は…?!
そんなに危ないことをしているの?!」
睨んでいるのか泣きそうなのか分らぬ表情で、しつこく詰め寄ってくるコイユールに、ジェロニモは、ますます不審の表情になる。
「今、話した通りサ。
俺が見たのは、それだけだ。
それより、何なんだ?
アンドレス様をいやに親しげに呼んだりしてさ。
コイユール、まさかアンドレス様と知り合いか何か?
そういやぁ、君はマルセラ様とも知り合いだったし、ナ」
やや皮相なジェロニモの口調に、コイユールは言葉を呑む。
何やら怪しげな雲行きになってきた二人の様子を察して、集まっていた他の義勇兵たちは目配せしながら去っていく。
二人きりに残された中、言葉に詰まったまま固まってしまったコイユールに、ジェロニモは真正面から向き直った。
「そうなのか、コイユール?
まさか…本当に、アンドレス様と知り合いなのか?!」
「いえ…まさか、そんな……」
「それじゃあ、どうして、そんなに気にする?」
口ごもるコイユールに、今度は逆にジェロニモが詰め寄った。
コイユールの握り締めた華奢な指が、明らかに震えている。
ジェロニモは一つ深く溜息をつくと、何かを吹っ切るように唇を噛んだ。
それから、いつもの陽気な調子に戻って言う。
「事情は知らないケドさ、それにしたって、あ~あ、コイユールも、やっぱアンドレス様かぁ!!
この軍の義勇兵の女子連中は、猫も杓子も、『アンドレス様、アンドレス様』って、きゃあきゃあ騒いでるもんなぁ。
ちぇっ、やっぱ、カッコイイもんナー!!」
愕然とした目の色のコイユールに、「ああ!!もう、冗談だって!!そこで突っ込んでくれないと!」
それから、ついに観念したように、ジェロニモがポツリと言う。
「本当はサ、少しは喜んでほしかったな…こうして、俺が生きて戻ったこと」
(あ…それは…もちろん――!!)
コイユールが声にならない言葉を必死に搾り出そうとしている間に、ジェロニモは力無く小さく笑うと、己の寝所に向かって足早に去っていく。
後には、胸を突かれたような表情のコイユールだけが、残された。
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