緊張の余韻を滲ませながら従軍医はもと来た道を戻り始め、コイユールもそれに続いた。
すると、その後を、ディエゴが急いで追ってきた。
従軍医が振り返ると、「もう一人、診てほしいのだ」と言って、二人を別の天幕へと導いた。
中に入ると、やはりトゥパク・アマルの側近であるフランシスコが、ぐったりと寝台に倒れ込んでいる。
どうやら、そこはフランシスコの天幕のようだった。
フランシスコは眠っているのか気を失っているのか、いずれにしろ意識の無いまま、額から多量の油汗を流して身を横たえている。
呼吸も苦しげで、肩を激しく上下させている。
やはり天幕の中にはトゥパク・アマルが既に来ていて、心配そうにフランシスコの傍に身を屈めていた。
従軍医が急いで全身状態を調べるが、はっきりとした外傷が見当たらない。
「いつからです?」と問いかける従軍医に、「先ほど天幕に戻られてから、突然状態がおかしくなられたのだ」と、ディエゴが答える。
「ひどく熱が出て、呼吸も浅くなっておりますが、さしたる外傷も見当たりません」と、従軍医もやや困惑気味の表情で、改めてフランシスコを診察する。
それから、従軍医は暫し考え深気に目を細めた後、慎重な口調で言う。
「ある種の精神的なショック状態かもしれません。
お心に受けられた衝撃の度合いにもよりますが、ゆっくりと心と体を休められれば、徐々に回復いたしましょう。
いずれにしろ、経過を診させていただかなければ、何とも言えません」
ディエゴは、「精神的なショック状態?!」と、唖然とした様子で目を見張る。
だが、トゥパク・アマルは静謐(せいひつ)な眼差しで、「あの戦闘は凄まじかった。そのようなことも有り得よう」と、いたわるようにフランシスコを見つめた。
トゥパク・アマルは改めて従軍医の労をねぎらい、従軍医も恭しく礼を払う。
そのまま従軍医はコイユールを伴って、今度こそ本当に側近たちの天幕を後にした。