コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
アフィリエイトOK
発行者:風とケーナ
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第14章 忍び寄る魔
従軍医は、トゥパク・アマルらを前にして、かなり緊張した様子ではあったが、それでもビルカパサの傷口の手当てを慎重に進めていった。


彼の指示のもと、コイユールも丁寧に血を拭い、傷口を拭き清めていく。

そして、指示通りに、薬草を調合する。

アンドレスの存在を近くに感じると手元が狂いそうで、彼女は必死で為すべきことに集中しようと努めた。



「ビルカパサの怪我の様子は、どうであろうか」

トゥパク・アマルが、深く案ずる面差しで従軍医に問う。

「はい」と、従軍医はひどく畏まってトゥパク・アマルに深々と礼を払い、それから、緊張の滲む声ながらも、しっかりと答える。


「ビルカパサ様の傷は浅いとは申せませぬが、幸いにも、お命にさわるほどではありますまい。

ただ、傷を負ってから時間も経っており、お体へのご負担がかなりきております。
今夜は、高熱になるやもしれません」

そう伝えると、恭しい手つきで、指示をしてコイユールに調合させた薬草を掲げた。

「こちらの薬を、お飲みいただいてください。
高熱に効きましょう。

お怪我の方は、定期的にお薬を塗布しに参ります。
時間はかかりますが、徐々に回復いたしましょう」


この有能な従軍医の言葉に、トゥパク・アマルもディエゴも、そして、アンドレスも深い安堵の表情になった。

「ご苦労であった」

トゥパク・アマルが、深い礼を込めた真摯な声で言う。


従軍医はいっそう深々と頭を下げ、同じくコイユールも深く頭を下げた。

それから、従軍医の後に従い、彼女はアンドレスの方に大いに気持ちだけ残しながらも、天幕を後にするしかなかった。


アンドレスもどうすることもできぬまま、ただその瞳だけで、去りゆくコイユールの後ろ姿を必死に追った。
239
最初 前へ 236237238239240241242 次へ 最後
ページへ 
TOP