コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第14章 忍び寄る魔
二人は、互いの瞳に強く引き付けられた視線を動かすことができなかった。
かつてと変わらぬ互いのその瞳の色に、二人の時間は完全に歩みを止める。
たちまち二人の意識は時空を越えて、あの懐かしい日々に引き戻された。
そして、心に深く沈めていたはずの、二人の絆を目の前につきつけ、輝かせる。
「コイユール、手伝っておくれ!」
その時、天幕の奥から従軍医の緊迫した声が響き、コイユールは現実に引き戻された。
アンドレスも我に返り、入り口を開いて、コイユールを中に通した。
震える足取りで、コイユールがアンドレスのすぐ傍を通り過ぎる。
そして、ともかくも彼女は従軍医の隣に控えた。
天幕の奥では、意識朦朧としたビルカパサが、苦痛に顔を歪めながら、右腕を押さえて横たわっていた。
それは、あの戦闘開始時に、己の体を張ってトゥパク・アマルを砲撃から守った際の負傷であった。
ビルカパサは、これほどの重傷を負いながらも、数時間にも及ぶ激闘の中を、しかも並外れた働きぶりによって敵を討ち取り続けたのだった。
さらには、戦闘後の様々な処理に当たる間も、トゥパク・アマルを助けて働き続けた。
しかし、日没と共に、ついに力尽きて倒れたのだった。
天幕の中には、トゥパク・アマルやディエゴも来ており、ビルカパサの様子をひどく心配そうに見守っている。
アンドレスは天幕の中に戻ると、集団から少し離れたところに立った。
激しく波立つ心を懸命に自制しながら、震える指先を握り締める。
負傷の血生臭いにおいの充満する天幕の中だというのに、どんなに意識すまいとしても、コイユールがいるというだけで、その場の空気が優しく柔らかく感じられてしまう。
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