コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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発行者:風とケーナ
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第12章 進軍
時が止まったように思える。


周囲には、二人以外は誰もいなかった。

しかも、少し大きな声で呼べば、十分に声が届く距離である。


コイユールの心臓は、早鐘のように激しく打ちはじめた。

手足が微かに震えてくる。



釘づけられたままの彼女の瞳の中で、アンドレスはこちらに背を向けたまま、幾度も、幾度も、ただ黙々と、一刀一刀に渾身の思いを込めるようにサーベルを振っていた。

素人の彼女の目にもわかるほどに、それは、本当に、力強くも美しい動きだった。


あの少年の日、アンドレスの瞳の中に燃えていた蒼い炎が、彼の全身から発せられているのを、コイユールは今、はっきりと感じ取ることができた。



コイユールは切なさと共に、いや、それ以上に、何か感極まるものを感じて、胸が熱く込み上げた。

彼女は恍惚とした瞳でアンドレスの姿を見つめた後、そっと震える瞼を閉じて、その後ろ姿に向かって心の中で祈りを送る。


インカの民の解放――その共通の願いが、まだ幼かった二人の心を結び合わせた懐かしい日々。

そして、今、その同じアンドレスは、それに相応しい一人の武人に成長して、あのインカ皇帝にも等しきトゥパク・アマルの信頼のもとで、確実に、かつての願いを現実の形にしつつあるのだ。


アンドレスが己の道を真っ直ぐに進んでいるように、自分も、自分なりにできることを精一杯するのみなのだ。

物理的な距離がどれほど遠くとも、傍で感じられなくとも、大事なことは、そんなことではないはず。




コイユールは、うっすらと滲んだ涙を泥のついた指先でぬぐってしまい、泥が顔についてしまうと、ちょっと慌てながら夜闇に感謝する。


それから、音を立てぬように注意深く残りの作業を済ませてしまうために、再びジャガイモに視線を戻した。
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