コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第2章 ビラコチャの神殿
かくして、ペルーには、かつての「黄金帝国」の名にふさわしい、金銀を豊かに産出する鉱山が実在した。
スペイン人は、その鉱石の採掘、貴金属の抽出に躍起となり、そのための労働力としてインカの人々を酷使したのだった。
もともとのインカの法で定められた期限も、給料もあったものではなかった。
それどころか、想像を絶する過酷な労働、不衛生で劣悪な生活環境のために、鉱山での強制労働に出たもので生きて故郷に戻ってこられる者はほとんどいなかった。
不幸にも鉱山でのミタに送られることが決まった人々は、家財をすべて売り払い、決死の覚悟で故郷を後にした。
そして、実際に、二度と生きて戻ってくることはなかった。
スペインに送られた金銀は、文字どおり、インカの人々の血と涙の結晶だったのだ。
コイユールの両親もまた、彼女が6歳の時に鉱山のミタに駆り出され、祖母の元に彼女を託したまま二度と戻ってはこなかった。
以来ずっとコイユールは、祖母と二人、小さな畑を耕しながらひっそりとこの集落で暮らしてきたのだった。
コイユールはささやかな夕食の皿を片付けるために、席を立った。
「そういえば、コイユール!」
沈黙を破ったのは老婆の方だった。
コイユールは皿を洗う少量の水を桶から汲みながら、祖母を振り返る。
「なあに?」
水は刺すように冷たく、指先にしみる。
「さっきフェリパの奥様の使者が来て、またおまえに館まで来てほしいと言っていたよ」
「本当?!
おばあちゃん、行ってもいい?」
コイユールの表情がパッと明るくなったのを見て、老婆は少し苦い笑いをしながら、やれやれといった様子で軽く両手を広げた。
「コイユール、お前は、あのお屋敷に行くのが好きなんだねえ。
ほんとに…」
「…ん」
コイユールは祖母の気持ちを察して、視線をそらし、それ以上はその話題はやめて皿をゆすぎはじめた。
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