まもなく、群集の大きな歓声に包まれながら、愛馬に跨ったトゥパク・アマルが広場に現れた。
いつにも増して厳かな黒ビロードのマントと黒服を身に纏い、膝と靴には朝陽を受けて鋭い閃光を放つ金の留め金が付けられ、彼の備える高貴な風貌にいっそうの輝きを添えている。
胸元では、あの黄金の太陽の紋章が、眩い朝の光の中で太陽さながらに煌いていた。
そして、彼の周りでは、やはり格調高い黒服に身を包み、艶やかな黒馬に跨ったいつもの側近たちが、トゥパク・アマルを堅く護衛しながら進み来る。
白馬に跨ったまま威風堂々たる身のこなしで壇に上り、トゥパク・アマルは、集まった大群衆を深い礼を込めた眼差しで遥々と見渡した。
よくぞ集まってくれた!!
――侵略以降200年間の永きに渡り、徹底的に虐げられ、自尊心を奪われ、すっかり縮こまっていたインカの地の人々が、今、自ら立ち上がらんとしている――!!
その勇姿が、彼の目には、どのように映っていたことだろうか。
トゥパク・アマルにとっても、その瞬間は、心に激しく迫り来るものがあったに相違ない。
彼は朝の瑞々しい太陽が輝く蒼天に向けて、高々と右腕を振り上げた。
「インカの地のすべての民の復権のために!!」
地底から湧き上がるような、厳かな、ゆるぎなき声が、天空に、大地に、力強く響き渡る。
それに呼応して、激しく強烈な気迫が、混成の軍団の間に嵐のごとくに波立ち、うねり、漲っていく。
「これより、進軍を開始する!!」
トゥパク・アマルの声に、「オオー!!」と猛々しく呼応する軍団の声は、遥かコルディエラ山脈までをも揺るがすほどの怒涛の力強さで響き渡っていった。
こうして、代官アリアガを処刑した翌11月11日、インカ族、混血児、当地生まれのスペイン人、そして少数の黒人たちから成る混成のインカ軍は、トゥパク・アマルの指揮のもと、一路キスピカンチ郡首府キキハナに向かって進軍を開始したのだった。