その後、間もなくオルティゴーサが到着した。
オルティゴーサはインカ族の豪族で、トゥパク・アマルらの治めるティンタ郡に比較的近いアコビア郡のカシーケ(領主)であった。
トゥパク・アマルにとって、かのアパサ同様、最も有力な同盟者の一人である。
夜闇の中を勢い良く馬で馳せ参じたその男は、トゥパク・アマルの従弟ディエゴをも凌ぐ筋骨逞しい大男で、厳めしい褐色の顔には、耳から顎一帯にかけて黒々とした髭をたっぷり蓄えている。
全身からは強い気迫が漲り、いかにも戦場の似合いそうな武人という風貌だ。
出迎えたトゥパク・アマルとオルティゴーサは、共にガッチリと手を握り合った。
「トゥパク・アマル様、いよいよですな!!」
オルティゴーサが逞しい肩をいからせながら、興奮をかくせぬ様子で、太く響く声で言う。
「ああ、いよいよだ」
トゥパク・アマルも力強く頷き返した。
それから、トゥパク・アマルを中心に、オルティゴーサ、従弟ディエゴ、腹心ビルカパサ、義兄弟フランシスコ、相談役ベルムデス、甥のアンドレス、そして、妻のミカエラが参加し、明日からの行軍に向けて最終的な打ち合わせが行われた。
「兵の状態は、明朝の出陣に向けて万全ですぞ!!」
オルティゴーサはトゥパク・アマルの方にその身を乗り出すようにして、武人としての自信溢れる堂々たる声で言った。
トゥパク・アマルも、しかと頷き返す。
スペイン役人の嫌疑の目を逃れるため、トゥパク・アマルは敢えて自分の元ではなく、このオルティゴーサの元に武勇に秀でた者たちを集め、専門兵として密かに訓練を行わせてきた。
オルティゴーサは、アンドレスの師であるアパサ同様、ペルー副王領の中では名の轟く腕の優れた武人であり、有能な戦術家でもあった。
この後、反乱本部の参謀として機能していくことになる男である。