コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第12章 進軍
その後のティンタ郡一帯の集落は激しい興奮に包まれたまま、人々はまるで蜂の巣をつついたかのように慌しく動き回っていた。
インカ族の者たちは当然のことながら、混血児の者たち、そして、当地生まれのスペイン人たちまでもが、明朝の出陣に向けての準備を嬉々として開始した。
そして、一見、いつもと変わらぬ仕事に勤(いそ)しむ黒人の者たちの横顔にさえ、密かな高揚が滲んでいた。
スペイン人の圧政によって苦しんできたのは、決してインカ族の者たちだけではなかった。
当地生まれのスペイン人も混血児たちも、そして、はるばるアフリカより白人に連れてこられた黒人奴隷たちも、スペイン渡来の白人たちによって激しく蔑視され、搾取され続けてきた不平分子であった。
トゥパク・アマルは、もともとそれらの人々の窮状にも目を向けていたし、この反乱においても、単にインカ族の解放にとどまらず、それらの人々の真の自由を取り戻すことをも反乱計画当初からその眼目としていた。
ところで、このインカ軍の構成の特徴の一つには、多くの女性も参加したということが挙げられる。
実際、アンデスの女性たちは、織物や土器を作り家事を取り仕切るばかりか、身体的にも精神的にも強靭で、しばしば畜群を追って遠く旅をすることもあるし、また、農作業などにおいても、平素から男性顔負けの働きぶりを示す。
歴史上の資料に残る反乱軍の隊長たちの中には、実際に、複数の女性たちの名を見出すことができる。
そんな集落の喧騒の中を、人々の波をかきわけるようにしながらコイユールは自分の住む小屋への帰路を急いでいた。
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