コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
アフィリエイトOK
発行者:風とケーナ
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第2章 ビラコチャの神殿
今、山道を小走りに登りながらコイユールが目指しているのは、このビラコチャの神殿である。

侵略者たちの手によって殆どが破壊され、もはや石組みの基底部と壁の一部しか残されてはいなかったが、それでも、インカの最高神に捧げられたこの神殿を見るたびに、彼女の心は、往年のインカ帝国の栄光を想って熱くなった。


征服下の時代に生まれたコイユールにとって、それは想像するしかないものであったが、この神殿を訪れるたび、祖先の記憶が甦ってくるかのような感覚が込み上げてくるのだった。

そのため、物心ついてからというもの、毎年、雪どけを待って、誰よりも早くこのビラコチャ神殿を訪れることが習慣のようになっていた。




そして、神殿は、今年も静かにそこにあった。

コイユールは胸元に手を添え、弾ませていた息をそっと静めながら、神殿に続く草地を踏みしめていく。


その堅固さゆえに、スペイン人たちが破壊しようにも破壊しきれなかった神殿の基底部。
それは、今も、蟻一匹通さぬ精緻な石組みによってガッチリと支えられていた。

どれほど破壊の跡を留めようとも、現在もまぎれもなくそこに存在しているインカの神の聖域。



夕暮れ時の黄金色の光に染め上げられた神殿が、ひときわ美しいことをコイユールは知っていた。

凛とした冷たい風に吹かれ、西日に照らし出された静寂な神殿は、長い漆黒の影を引き、人をよせつけぬ神秘的な威光を放っている。


あまりの神々しさに、それ以上近づくことが憚(はばか)られて、神殿から少し離れた場所でコイユールは足を止めた。
そして、その厳かな雰囲気に思わず息をひそめる。

犯しがたい神聖さに、インカの祖先の熱い魂が、体の奥底から湧き上がってくるような感覚にとらわれる。




その時、神殿の陰で不意に人影が動いた。


コイユールは、ハッと息を呑んで、反射的に草の中に身をかくした。

(誰かいる?!)
13
最初 前へ 10111213141516 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ