コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第9章 若き剣士
増してや、「美しい」という単語がアパサの口から出たことに驚いたし、決して嫌味な意味ではなく意外でもあった。

「美しく、ですか?」

アパサは、真面目な顔のまま「そうだ。美しく、戦え」と繰り返した。


「おまえは、ただ敵を倒せればいいのではない。
美しく倒さねばならい。
おまえの戦場での振る舞いの一つ一つが、インカ皇帝の血統――いや、その分身として、ふさわしくなければならんのだ。

おまえの存在価値は、おまえがおまえ自身であることにあるのではない。
これからインカ皇帝として立つトゥパク・アマルの分身のごとくに、全てにおいて、あいつを引き立てていくことにこそ価値があるのだ」


アンドレスは、ハッとした瞳でアパサの顔を凝視した。

確かに、銃や砲弾で応戦してくる敵兵に対して、自分がいかに果敢に剣を振りかざして立ち向かおうとも、それだけでは、さほどの意味は無いのかもしれない。

むしろ、反乱軍の精神的支柱としての「インカ皇帝」つまりは「トゥパク・アマル」の属性の一部として、味方の士気を高めることにこそ意味があるのだ。
それ故、「インカ皇帝」の側近、あるいは血統の武人として、いかに味方の心を打つ振る舞いができるのか、その見せ方が重要だと、アパサは言いたいのだろう。




既に、辺りは澄んだ藍色に染まりはじめている。

秋近い夕暮れ時の空気は、何とも物悲しい。
足元のすぐ傍の草の中から、虫の鳴く声が響いてくる。


(俺が俺自身であることではなく、トゥパク・アマル様の分身であること――…)

アンドレスは、すっかり手になじんだ棍棒の感触を確かめた。

「わかりました」

「うむ」と短く答え、アパサは屋敷の方に消えていった。



一人草地に立ったまま、アンドレスは宵の空を見上げた。


ただでさえ乾いたこの土地の秋間近の空は、恐ろしいほどに澄んでいる。
まだ微かに薄明るい空には、しかし、星々が早くも秋の星座を描きながら、白く清らかに瞬きはじめていた。

無性に故郷が懐かしく思えてくる。
星の静かな瞬きが、今は、なぜかとても切なく感じられる。




すっかり夜の帳がおりても、アンドレスはじっと遠い星を見上げたまま、いつまでも冷たい風に吹かれていた。
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