コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

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コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第2章 ビラコチャの神殿
やっと谷の氷が解け始め、緑の草が芽吹くこの時を待っていた。

山を見やっていた黒い澄んだ瞳を前方の道に戻して、少女は再び人気(ひとけ)のない山道を進みはじめる。


「急がないと、夕陽の時間に間に合わなくなってしまう…」

一人呟くと小走りに道を登っていく。



集落を出て、もう1時間以上は山道を進んできただろうか。

高地の薄い空気の中では、息が少し苦しくなってくる。
しかし、この谷で生まれ育ったコイユールは、それほど苦にすることもなく、身軽な足取りで先を急いだ。

 
眼下の深い渓(たに)には、碧く煌くビルカマユ川が、ゆったりと蛇行しながら流れている。
ビルカマユの川はそのまま谷間を下りながら、かつてのインカの秘都マチュピチュの傍らを通り過ぎ、やがて遥か彼方の大海へと注いでいく。


コイユールが清冽な川の流れに視線を馳せると、少し傾きはじめた陽光が川面に反射して、黄金色の精緻な輝きをキラキラと放った。
少女は、柔らかなまつ毛に縁取られた、くっきりとした目を、まばゆげに細める。

(綺麗……!)


遠く、山鳥の声が響いていた。




ところで、このペルー南部高原地帯は、インカ帝国の聖都クスコが置かれていた場所だけあって、その周辺地域には、インカの重要な聖地が多数点在していた。

インカの創造神ビラコチャを祀ったビラコチャ神殿も、そうした聖地の一つである。


ビラコチャ神はアンデス地帯で古くから信仰されてきたインカ最大の神であり、インカの初代皇帝はビラコチャ神の御子であるとも言い伝えられてきた。
そうしたビラコチャ神の姿は様々に語り継がれるが、太陽の顔を持ち黄金の笏杖を握る姿で描かれることが多い。


そんなビラコチャ神の名を冠した神殿はここだけではないが、トゥパク・アマルやコイユールの住むこの村のはずれにも、規模の大きなビラコチャ神殿――正確には、「ビラコチャ神殿跡」だが――が、存在した。



2世紀ほど前にスペイン人に侵略されて以来、インカの人々はキリスト教への改宗をせまられ、表立ったビラコチャ神への信仰は続けられなくなっていた。
かつては様々な聖なる儀式が執り行われたインカの精神的シンボルでもあったこの神殿も、今は山中にひっそりと眠るようにたたずんでいる。


だが、インカの人々の魂の中には、今もビラコチャ神への熱い信仰心が確固として生きていたのだった。
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