アンドレスの特訓は、アパサの指導から自主練習も含めて、毎日、早朝から夜遅くまで続いた。
武術のみならず、夕食後には戦術の指南も行われた。
ほとんど息つく間もないほどのハードなスケジュールではあったが、アパサの熱心な指導に彼は次第に深い感謝の念を抱きはじめていた。
実際、トゥパク・アマルの反乱の決行が、すぐそこまで迫っているかもしれなかった。
残された時間は、決して多くはないと思われた。
だが、まだまだ身につけねばならないことばかりであった。
アンドレスは夜遅く自室に戻ってくると、毎晩、鏡の前で自分の動きを細かくチェックした。
そして、一日の最後の残された時間を、書棚に山のように並べられた戦術の書物を読むことに費やした。
いずれも、しっかりと読み込まれた形跡のある書物ばかりである。
恐らく、かつてアパサが愛読した戦術の指南書なのだろう。
机に座り本のページをめくりながら、しかし、大抵、すぐに睡魔に襲われて、たちまち深い眠りに落ちかける。
今も、本に指をかけたまま朦朧としていたことに気付き、彼は睡魔を払うようにして首を振り、そして、何とか寝具に着替えた。
しっかり寝ておかなければ、ハードな明日の一日を乗り越えられない。
蝋燭の灯りを消そうとして、ふと彼の視線が窓辺の花にとまる。
窓辺には、可憐な淡い色合いの野の花が、そっと飾られていた。
彼は灯りを消すのを少し待つことにして、寝台の端に腰掛け、その優しい花を眺めた。
アパサの姪のアンヘリーナが、彼が訓練中に部屋を開けている間、毎日摘んできては、そっと生けてくれているのだった。
胸の内に、何か熱いものが込み上げる。
アパサにも、アパサの妻にも、アンヘリーナにも、そして、この屋敷の他の人々にも、それぞれの形で、まるで包まれるように温かく見守られているのを感じる。
アンドレスは、心からありがたいと思った。
明日も頑張ろう…、彼は窓辺の花に静かに微笑みかけて、燭台の灯りを消した。