コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
第9章 若き剣士
アパサは相手の答えも待たずに、「基本が全くなっていないからだ」と、あの冷淡な声で続ける。
そして、「武器を置け」と指示して、アンドレスの1メートル程前に立った。
「まず、立ち方からだ。
構えるつもりで立ってみろ」
己の言葉に素早く応じたアンドレスの立ち姿を、彼は厳しい目でじっと観察する。
実際、アンドレスの場合、体型的なバランスはかなり良い。
きちんと左右の足に等分の力も入っている。
アパサは頷き、「どうしたら、もっとバランスを高められると思う?」と、おもむろに質問を投げてきた。
「重心を低めることでは?」というアンドレスの答えを、手で振り払うようにして、「そんな抽象的な答えではない」と制してから、息を深く吸い込んだ。
「『気』を下に落とすのだ。
いいか、息を深く吸う、それを丹田にスッと溜める」
アンドレスはアパサの指示のまま、実際にやってみる。
確かに、重心、というか、自分の中心が、スッと体の中央におさまる感覚がする。
アパサはまた頷いた。
「そうだ!
そして、地面をしっかりと足裏でとらえる」
それから、「どうだ?地中からのエネルギーが伝わってくるのが感じられるだろう」と、輝くような力の漲る眼差しでアンドレスの顔を覗き込んだ。
アンドレスは、これまでとは違うアパサの表情に、力強く頷いた。
「そうだ!
そして、そのエネルギーを攻撃のパワーに転化するのだ!!」
切れ味のよい刃物のような面持ちで、再びアパサがアンドレスを見る。
「次!
構えだ」
彼の指示に従い、アンドレスは棍棒をサーベルに見立て、構えの姿勢をとってみる。
今の自分の筋力では、とても片手では扱いきれない代物だった。
まだ、この異様に重い鈍器が手になじまない。
無意識に構えをつくり直した。
その瞬間、アパサの険しい怒声が飛んだ。
「一度決めた構えをつくり直すな!
死ぬか生きるかという時に、構えをつくり直している暇などあるか」
そして、厳しい目でアンドレスを睨む。
「いつでも戦場にいると思え」
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