「そうですか。
いや…まいったな」
アンドレスは苦笑した。
「あの荒々しいアパサ殿に、あなたのような姪御さんがいらしたとは」
それから「お世話になります」と、首を動かして丁寧に礼をはらった。
それだけの動きでも、首から肩、そして背骨の方まで激痛が走る。
しばしの沈黙の後、アンドレスが低く言う。
「あなたの叔父上は、お強いですね」
彼は苦々しい思いを噛み締めつつも、一方で、いや、俺が弱すぎるのか…と、心の中で虚しく呟いた。
アンヘリーナと名乗ったその少女は、アンドレスの心の声を察するかのように、「叔父様は、武人としての腕だけは、この辺りでは右に出る者がないほどお強いのです」と慰めるように答える。
そして、優しく微笑みながら、控えめな声で続けた。
「叔父様に武術を学ばれたら、きっとアンドレス様は叔父様を凌ぐような立派な武人になられますわ」
アンドレスは自分の心を見透かされたような、どこか決まり悪い気持ちで、「そうだろうか…」と感情の無い声で答えた。
「だって、アンドレス様の叔父上様のトゥパク・アマル様は、叔父様よりも、もっとお強いではありませんか」
アンドレスは瞳を見開いて、寝台の上から少女に体ごと向き直る。
「トゥパク・アマル様をご存知なのですか?」
「叔父様からお話を聞かせてもらっただけですけれど」
「なんと聞いている?」
アンドレスはやや身を乗り出すように、うつむきがちな少女の顔を覗き込んだ。
「トゥパク・アマル様は、はじめて叔父様に会われた時、斧で果し合いをして、叔父様を負かしてしまったそうですわ」
「トゥパク・アマル様が、アパサ殿を?!」
初耳だった。
トゥパク・アマルから、アパサの元で修行してくるようにとは言い渡されていたものの、詳しい経緯は全く聞かされていなかったのだ。
思いに耽ったような眼差しになってしまったアンドレスに、アンヘリーナは静かに礼をして「お食事をお持ちしますわ」と、淑やかな物腰で部屋を出ていった。